小林製薬は健康被害を引き起こす「紅麹」について、問題となった製品や原料ロットに「未知の成分」が含まれる可能性に言及。その後、同社はそれが(青カビ由来の)「プベルル酸」である可能性を厚労省に報告した。
プベルル酸は昨年9月に製造されたロットの原料に多く含まれていたという。健康被害の訴えも同時期の製造品に集中していることから、原因物質としての可能性が取り沙汰されている。
医薬品などの安全性を司るPMDA(医薬品医療機器総合機構)で審査専門員を務めたナビタスクリニック川崎院長・谷本哲也氏が解説する。
「紅麹菌がプベルル酸を作る可能性は低いとされますが、青カビから作られるプベルル酸が、生産工程のなかで自然発生するアクシデントや、そもそも原料に含まれていた可能性も考えられます。かなり珍しい物質なので、誰かが外部で入手して混入させることは難しい」(以下、「 」内のコメントは谷本医師)
一般に「プベルル酸」とは聞き慣れない名前だが、どんな物質なのか。
「研究情報がほとんどありません。調べてみたところ、過去の英語論文も10本も見つからないくらいです。約90年前に発見されましたが、ヒトに使われたという研究データは見当たりません」
研究者にとってもプベルル酸は「ノーマークの物質」だという。
「マラリア治療薬としての可能性を探るため、マラリアに感染させたマウスへの投与実験が行なわれましたが、5匹中4匹が死んだと発表されています。マウスの死因にプベルル酸がどう作用したかは不明ですが、いずれにしても有用性が見出せず、薬にするのが諦められた経緯があることから、毒性がきちんと評価されていない物質なのです」
専門家からは「フグの1万分の1の毒性しかない」との指摘もあり、プベルル酸が原因とする説には疑問の声も多い。
谷本医師も現段階でプベルル酸が“真犯人”とは言い切れない、と語る。
「今回発症したケースを見ると、紅麹サプリの摂取から早い段階で症状を起こした人もいるので原因物質の強毒性を疑うこともできます。しかし、強力な抗がん剤の点滴投与を除き、飲み薬の服用後に短期間で腎障害が起こるような物質は知られていません。現時点でプベルル酸が原因とする説には疑問が残ります」