白昼堂々の日本橋で起きた、大胆な「純金茶碗窃盗事件」は、容疑者の逮捕と盗難品の発見で幕を下ろした。だが、一歩間違えれば、わが国の貴重な芸術品は遠く海を渡っていたかもしれない。
東京・中央区にある日本橋高島屋の催事場から盗み出された純金製の茶碗は、その数時間後には隣の江東区内の古物店に持ち込まれ、間を置かず、そこから北上した台東区内の買取店に転売されていた。一時警察もありかをつかめなかった純金茶碗は、幸いにも、まだ「原形」を留めたまま見つかった──。
事件が起きたのは4月11日の昼前のことだ。日本橋高島屋では前日から「大黄金展」が催され、金の工芸品1000点以上が展示・販売されていた。11時30分頃、催事場に姿を現した男は、展示されていたアクリル製のケースから茶碗を取り出し、背負っていたリュックサックに入れて持ち去った。盗まれたのは、金工作家・石川光一氏の作品で、販売価格約1040万円の24金製の抹茶茶碗だった。
今年2月に配信がスタートした賀来賢人(34才)主演のNetflixオリジナルドラマ『忍びの家』は、現代まで残る忍者の家系の闘いを描く。そこに、厳重な警備が敷かれた美術館から芸術品を盗み出すシーンがある。白昼の老舗百貨店で起きた現実の窃盗事件は、まさに忍者ドラマさながらの“プロ”の犯行とみられた。しかし、事件から2日後に逮捕されたのは、無職の堀江大容疑者(32才)だった。
当の容疑者は、「盗んだ茶碗でお茶を飲もうと思ったが、現金に換えた方がいいと思った」と、短絡的な犯行だったと供述。逆に百貨店側の“落ち度”が指摘される事態となった。
「アクリルケースには鍵がついておらず、警備員の目も行き届いていなかった。行き当たりばったりの犯人が簡単に盗めた、ドラマとはまったく違う事件だったわけです」(捜査関係者)
一般的に、窃盗事件が発生すると、警察は被害品を記載したリスト(品触書)を作成し、一斉に古物商に配布するという。
「古物商は、品触書にある商品を所持していた場合は警察に届け出る義務があります。仮に盗品が持ち込まれた際には買い取らないよう、研修なども行われています。今回は事件から時間が経たない中だったので、そうした対策をすり抜けてしまったのでしょう」(警察関係者)
売買が繰り返された結果、一時行方が把握できなくなっていた、今回の被害品。事件から4日で発見されたが、もしかしたら今頃「盗品マーケット」の目玉商品になっていたかもしれない。