陰謀論とは、出来事や状況について、邪悪で強力な者や集団による作為によって起きているという主張だ。最近ではSNSを通じて影響を受けたり喧伝する人が多いこともあり、陰謀論を主張する人たちにはリアルで親しい人が少なめの人、非リア充が多い印象だった。ところが、ネットより地元の友人や先輩後輩の言うことを信じがちなヤンチャだった人たちや、学生時代にカーストの頂点にいたような人が、SNSで陰謀論を叫び始めて古くからの友人知人を戸惑わせている。ライターの宮添優氏が、リア充コミュニティのメンバーだったはずの人が主張するがゆえに、リアル(現実)で悩まされる人たちについてレポートする。
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高度な情報化社会の弊害とでもいうべきか、世論にはネットを発信源とみられる偽情報やフェイクニュースが溢れ、一体何が真実で何が嘘なのか、わかりにくくなりつつある。「親がネトウヨ(ネット右翼)になっていた」とか「友達が反ワクチンの陰謀論にハマってしまった」という人も珍しくなくなっているが、高齢者や情報弱者だけでなく、意外な人が陰謀世界に「闇堕ち」し、周囲を悩ませるパターンも続出している。
「昔は暴走命、ケンカに明け暮れ、確か傷害事件を起こし少年刑務所にも入っていたと思います。そんな先輩が、ワクチンの真実とか世界人口削減計画とか、毎日のようにSNSにポストしはじめたんです。最初はアカウントを乗っ取られたかな?くらいにしか思っていなかったんですよ」
こう話すのは、愛知県在住の自営業・橋本孝明さん(仮名・40代)。10代の頃、橋本さんは地元の暴走族に属していたが、当時から頭の上がらなかったリーダー格のX男とは、長らくSNSで緩く繋がっているだけで、もう十年以上も会うこともなかったという。しかし、新型コロナウイルス感染症が世界的に流行し、日本でも感染が拡大し緊急事態宣言が発令され異例のスピードでワクチン接種が行われてからというもの、X男は「ワクチンで人口削減計画が始まる」とか「世界を牛耳るDS(ディープステイト)を潰さなければ」といった、怪しげな書き込みを始めたという。
ディープステートとは、選挙で選ばれた政権を操る闇の政府を意味するスラングで、インターネットが存在するより前から使われてきた言葉だ。この言葉が改めて脚光を集めたのは、ドナルド・トランプ米大統領が在任中に、自分の計画をディープステートが邪魔していると主張していた影響が大きい。世界征服を企む悪の秘密結社が存在すると本気で信じて子供番組を見るような年頃ならともかく、いい年をした大人が信じるには、あまりに荒唐無稽な理屈だと思われているため、信じている人たちを説得するのが難しい。だが、世界中に「DS」の存在を信じている人たちが、相当数いるのだ。
「最初は無視していましたよ(笑)。ですが、一応先輩だから、いいね押したりコメントしたりしていました。まあ、これがいけなかったんでしょう。”怖いですね”とか当たり障りのないコメントをしたところ、いきなり電話がかかってきて”お前も真実に気が付いたか”と大興奮されてしまった」(橋本さん)