イタリアンのシェフだった店主・妻が作る絶品料理が人気
こういう雰囲気が、すぐに醸成されたのではないという。前出の玲子さんが、息子・亮さんが角打ちを再開した当初のエピソードを話してくれた。
「あるとき、ちょっと威張った感じのお客さまがいらしてね、他のお客さまが困った様子だったことがあったんですよ。そこで、私が、その人に『どんなお仕事をやってこられたか知りませんが、ここではみんな平等。定年したらゼロスタートですよ』と言ったんです。それからは、みなさん和気藹々ですよ」
常連客は、会社引退組が多いのだが、なかには個性豊かな面々も。ギターケースを抱えているのは、現役のミュージシャン(60代)だ。「ライブハウスでひと演奏して、帰りにここに寄るのがお決まりのパターン。ホッとできる場所があってよかったよ」と笑顔で酒を傾ける。その横で、「私はキャンプやヨットに詳しいんですよ」と語る60代の常連が「相模大野って場所は、新宿へも30分、湘南へも30分なんです。いろんな文化がミックスするのに向いているかもね」と教えてくれた。
2代目の勇さんは、ほぼ店にいるので、若い世代の客には、勇さんとの会話を楽しみにする人も多い。
「この街の歴史や、”昭和”の遊び話を聞けるので、とても刺激的です。一杯やりながら、テレビで知るような話を直に聞けるのは、角打ちならではですね」(40代・自営)。まさに、この店は異業種・異世代が交差するターミナル駅のごとしだ。
“社交場”のひとときを大いに盛り上げているのは、イタリアンのシェフだった絵里奈さんが作る料理だ。常連たちのお目当ての一つでもある。「主役のお酒に合うように工夫しています」と多彩なメニューを提供する。
「毎日お越しになる方もいるので、飽きないようにあれこれ考えていますね」(絵里奈さん)
絵里奈さんの料理は、ご実家が鮮魚店だったこともあり、豊洲市場から仕入れる新鮮な魚介を使ったものなど、誰もが太鼓判を押すおいしさだ。
勇さん、亮さん、絵里奈さんの3人はソムリエの資格と調理師免許を持っていて、酒と料理に詳しい3人が揃うと、飲む物、食べる物の話で、大いに盛り上がる。絵里奈さんが、「うちの店では、新しいマリアージュ(食べ物とお酒の良い組み合わせ)を楽しんでいただきたいです。まずは自家製の燻製を是非どうぞ。焼酎ハイボールにはスモーク感がピッタリだと思いますよ」とおすすめしてくれた。
その声を聞いた50代の常連が、「どの料理も絶品で、キリッと冷えた焼酎ハイボールとは、相性抜群だよ。うまいねえ」と目を細めた。
■カーヴ・ド・アズマヤ(東屋商店)
【住所】神奈川県相模原市南区相模大野5-27-12
【電話】042-742-3357
【営業時間】昼11時半~15時、夜17時~22時 土のみ通し営業、日・月定休
焼酎ハイボール170円、ビール中びん400円、燻製盛り合わせ780円、茹でカブと青菜の魚醤和え580円、燻製玉子200円、ヤリイカのアヒージョ580円