若き日の着物姿(インスタグラムより)

若き日の着物姿(インスタグラムより)

──「ヤクザは看板ではなく、人に惚れてなるもの」と耳にしますがその通りですね。シノギはどのようなものだったのですか。

 シノギは女とシャブがメインでした。最初のシノギは、三重県にある渡鹿野島に女を売り飛ばすことでした。ヤクザになる前から私は「キャンディーズ」というデートクラブ(現在のデリバリーヘルスのようなもの)を経営していたのですが、そこで働いていたレイコとミホ(いずれも少年院同期)の面倒を変わらずにみていたのです。

 三重の出身のミホには、ユウちゃんという地元ヤクザの元カレがいました。彼女にユウちゃんを紹介してもらい、渡鹿野島の話を聞いたところ、これは儲けられると思いました。レイコには、毎日のように投げてやったシャブの代金をはじめ、面倒見料や飲み食いなどがあったのです。話し合いの末、渡鹿野島行きに納得した次第です。

──かつて有名だった売春島ですね。約30年前ですから、男性の団体客がツアーのような形で行くなど盛況だったかと思います。そこで働く女性を斡旋していたんですね。

 翌日には、ユウちゃん(三重のヤクザ)から、渡鹿野島を仕切っている東さんというヤクザを紹介してもらいました。そして「つたや」という店の女将に話を通してもらいました。即日、うちの若い衆とレイコを連れて、その店に向かいました。

 渡鹿野島までは、対岸から漁船みたいな船で直ぐに着きます。的矢湾内にあり、波もなく穏やかな海だった記憶があります。

 交渉は、人任せにはできません。私が女将と客間で対面して、金額の交渉をしました。その結果、私が最初に提示した金額、前借り350万円で手を打つことになり、現金はその場で貰いました。その金を懐に入れ、レイコには「頑張れよ」と軽く声を掛けて店を後にしました。

 この世界は、口利きがあればスマートにことが運ぶものです。私は初シノギを無事に終えることができました。

──その後、その子がどうなったか知っていますか。

 はい。数年後、渡鹿野島に行く用事があったので、「つたや」でレイコと会いました。しかし、彼女は私を見ても誰だか分かりませんでした。記憶が飛ぶほど、渡鹿野島での生活は大変なのだと、この時、心が痛かったことを憶えています。

後編に続く)

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