野村総裁の自宅に家宅捜索に入る捜査員(写真/共同通信社)

野村総裁の自宅に家宅捜索に入る捜査員(写真/共同通信社)

2013年の看護師死傷事件の真相

 警察の圧力が増す中、工藤會の残忍さを改めて世に知らしめたのが2013年の看護師刺傷事件である。

 同年1月、福岡市博多区の路上で、北九州市の美容外科クリニックに勤務する女性看護師が、工藤會系組員に頭部などを刃物で突き刺されて重傷を負った。裁判記録によれば、このクリニックでは野村総裁が脱毛の施術を受けており、女性看護師は施術の過程で「入れ墨よりは痛くないでしょ」などと発言したという。

 警察は接客や施術に不満を持った野村総裁が報復で看護師を襲撃させたとして、2014年10月、野村総裁や田上会長ら幹部16人を逮捕した。

 伊藤受刑者はこの事件の発端に深く関わっていたようだ。手記には、2012年7月に本家の浴室に伊藤受刑者を呼んだ野村総裁がある指令を下すシーンが綴られている。

〈私はいつものように正座をして風呂場の曇りガラスの引き戸を開け「失礼します」と挨拶した。総裁は大きな檜風呂を背に、鏡の前でヒゲを剃っていた。総裁は「ヒゲ脱毛するとこ探せ。通いやすいところ」と言った。私が調べた限り、北九州市内で効果の高いレーザー脱毛施設は当時1つしかなかった。それが事件の看護師が勤める美容形成クリニックだった〉

〈資料を並べて複数の施設を説明しながらも、最終的にこのクリニックを薦めた。すると総裁はすぐにここと決め、私に案内するように申し付けた。8月に入ってクリニックに行った。私も同席して女性スタッフから総裁と共に説明を受けた〉

 野村総裁が同クリニックで施術を始め、2013年1月に刺傷事件が起きた。当初、彼は単なる通り魔事件で組の関与はないと思っていた。

 2014年4月、工藤會木村博・元幹事長が『週刊現代』のインタビューに応じ、看護師刺傷事件について組としての関与を改めて否定。だが、これが警察を刺激したとの見方がある。

〈この週刊誌が発売された後から、工藤會の内部がざわつき始めた。中には身柄をかわす(注・一時的に潜伏する)組員まで出てきた〉

 こののち、警察はトップを逮捕する「頂上作戦」を断行した。

第3回に続く第1回から読む

※週刊ポスト2024年5月3・10日号

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