「マリオと一緒の写真を使って」と頼まれて…
生涯独身を貫いたフジコさんだが、一方で「恋多き乙女」であることでも知られていた。中嶌さんは、フジコさんがボーイフレンドと一緒に映る写真を複数撮影している。
「フジコさんは何歳になっても乙女だったから、いつも恋愛をしていました。スロバキア出身の指揮者のマリオ・コシックさんが、晩年の長いボーイフレンドだったと思います。ある出版社の取材でフジコさんの写真がほしいと言われた時、フジコさんに『マリオと一緒の写真を使ってくれ』と言われて。それでツーショット写真を提供したんです」
「交友関係は決して広いほうではなかった」(中嶌さん)というフジコさんだが、日本の芸能界にも親交を持つ人々がいた。タレントの黒柳徹子さん(90)は4月21日の訃報に際し、「日本の芸大時代から、天才のほまれが高く、その後、ドイツに留学。たまに日本に帰るとよく二人で御飯を食べながら、彼女のドイツでの武勇伝を聞いたものでした」と、自身のInstagramで振り返っている。
「黒柳さんはよく下北沢の家にも遊びに来ていました。黒柳さんが海外のお土産で持ってきてくれたアンティークな生地なんかを、フジコさんは喜んで衣装や小物にしていましたね。家はたくさんのものが置いてあって、三輪明宏さん(89)が来るときは『掃除が大変だ』と慌てていたのを覚えています。
フジコさんはタバコが大好きで、11月に入院するまで吸っていました。コンサート会場は禁煙の場合が多いから、会場を抜け出してそばの喫茶店まで吸いに行くんです。フジコさんは写真を撮られるのが得意じゃなかったけど、タバコを吸ってる写真については撮られるのを嫌がらなかったですね。彼女にしてみたら、自分の日常を隠す必要はないと思っていたんだと思う」
「間違えたっていいじゃない、機械じゃないんだから」——そんな「名言」で知られるフジコさんだが、彼女自身は「間違えないための努力」を決して惜しまなかったという。
「下北沢の家の前を通りかかると、いつもピアノの音が聞こえてきました。ステージに上がる前には胸の前で十字を切り、本番で間違えたときはかわいそうになるくらい落ち込んでいた。堂々としていながら、とても繊細な人でした。ゆっくり休んでほしいと思います」
フジコさんの人生が投影された「カンパネラ」の音色は、決して色褪せることはない。ご冥福をお祈りします。