“朝に手でにぎったおにぎり”や“朝に急須でいれたお茶”が、夕方までそのままテーブルに置いてあっても、それらをためらいなく口にする人はほとんどいないだろう。だが、スーパーやコンビニの棚に長時間並んでいても、食中毒の心配は無用とばかりに手がのびる。それは問題ないことなのだろうか──。“長持ち食品”の安全性についてレポートする。【前後編の前編。後半を読む】
5月15日、群馬県でキッチンカーが販売するケバブやポテトを食べた男女28人が下痢や嘔吐を訴えた。うち1人が入院し、患者の便からはノロウイルスが検出されている。12日には島根県でも、出雲市の総菜店で弁当を購入した21人が体調不良を訴え、保健所は同店に原因があったとして5日間の営業停止処分を下した。
湿度が高まり梅雨入りが近づく中、日を追うごとに食中毒の魔の手が全国各地に忍び寄っている。
一方で食品を“長持ち”させる技術はますます進化し、コンビニやスーパーに行けば翌朝まで食べられるおにぎりや、常温でも腐らない総菜パン、缶詰めや真空パックに包まれた食品などが並ぶ。しかし、それらは果たして本当に“技術の向上”だけによるものなのか。加工食品ジャーナリストの中戸川貢さんは、そうした「長持ち食品」には別の落とし穴が存在すると話す。
「安全性や味、鮮度を保ちつつ長期保存を可能にしているのは、食品の腐敗や雑菌の繁殖を防ぐ『保存料』や『日持ち向上剤』、変色を抑える『pH調整剤』など、あらゆる添加物の果たす役割が大きい。もちろん、一定の品質や安全性を保つために添加物は必要不可欠です。また、大前提として現在使われているものはすべて国が認可したものであり、ただちに体に影響があるわけではない。
しかし、中には大量に摂取することで病気のリスクを招くと指摘されている成分もあるうえ、ヨーロッパ諸国では1つの添加物について“明らかな安全性”が確認できなければ許可が下りない一方、日本は“明らかな危険性”がない限り使用に規制がかからないという現状もあります」(中戸川さん)
つまり、数多の「長持ち食品」の中からリスクをはらむ添加物を含有する食品を見極める目を持っていなければ、食中毒を回避できたとしても別の形で健康が害される可能性もゼロではないのだ。
味と香りを保つ成分に潜む腎臓へのリスク
梅干しや漬物などの保存食を手作りしている管理栄養士の磯村優貴恵さんは、市販の「長持ち食品」の弊害をこう話す。
「自分で梅干しを作る際、材料は基本的に梅と塩だけ。赤みをつけたいときは追加で赤しそも入れますが、いたってシンプルです。
一方、市販されているものは甘みやまろやかさを出すためにさまざまな添加物を加えているものが多いうえ、塩気と酸味が強い手作りの梅干しよりも口当たりがよく、大粒の梅でも一遍にいくつも食べられる。結果、塩分を過剰摂取していたというケースは少なくありません」
食品表示アドバイザーの垣田達哉さんも「いまスーパーに並んでいる梅干しは、昔と比べて添加物が多い」と声を揃える。
「昔の梅干しが長持ちしていたのは大量に使われていた塩ゆえ。減塩志向のいまの世の中に合わせるために、添加物を増やして帳尻を合わせる必要がある。“甘さ控えめ”をうたう食品も同様です。
梅干しと同じく、日本古来の伝統的な保存食である漬物も市販品は、なすやきゅうり、ごぼうといった野菜の色落ちを防ぎ、あくを抜いて長持ちさせるためにミョウバンが使用されている商品は非常に多い。
しかしミョウバンは過剰に摂取することで腎臓障害や発達神経系への悪影響があることがわかっており、とりわけ子供にその傾向が強いといわれています」(垣田さん)
鮮魚を日持ちさせるべく先人が生み出したちくわやかまぼこなどの練り物も、店舗によっては常温で陳列されている場合がある。中戸川さんはこれらも注意が必要な「長持ち食品」だと指摘する。