40歳にして落語家への転身を志し、今年で噺家生活15周年を迎えた月亭方正(56)。師匠・月亭八方(76)に弟子入りし、立川志の輔(70)にも稽古をつけてもらったと明かす方正は、「僕はテレビの世界にいたから、落語界の有り難みが身に染みるんです」と言う。ノンフィクションライターの中村計氏が聞いた。(全3回の第2回。第1回から読む)
──いわゆる「お笑い」というジャンルは、おもしろいことを言ったりやったりすることで人を笑わせようとするもの。それに対して、落語は人間のかわいらしさや愚かさを表現して、人を笑わせようとするものというイメージがあります。方正さんは、その両方をやってきたと思うのですが、こういう理解の仕方でいいのでしょうか。
方正:どちらもそれだけじゃないんですけど、近いとは思います。落語って、確かに、人の心を映しているんですよね。つまり、道徳でもある。ただ、『武士道』のような厳しいものじゃない。落語はもっと懐が深いんです。たとえば、今日から禁酒しようと思ったのに夜、飲んでしまったとするでしょう。武士道の精神やったら、失格ですよ。めっちゃ怒られます。でも、落語は許してくれるんです。しゃあないな、また、明日から始めたらええねん、って。だから、自分にめっちゃ合うんですよ。
──立川談志が「落語とは人間の業の肯定だ」と語っていましたが、まさにそういうところですよね。
方正:あとね、これも落語をやっててわかったことなんですけど、地球上でいちばんおもしろい人って誰だと思います?
──個人ですか。
方正:個人というか、カテゴリーですね。言っちゃいましょう。これは僕の意見なんですけど、子どもです。
──なるほど。子どもって、おもしろいことを言ってるつもりじゃなく、おもしろいことを言いますからね。そこがたまらないですよね。
方正:純粋なんです。いつも一生懸命だし、ひたむきだし。人間の善みたいなものが、ぎゅーっと詰まっている。だから、かわいいし、おもしろい。それも落語をやってたら見えてきたんです。
──落語はいろんなタイプの子どもが登場しますからね。憎たらしかったり、こまっしゃくれてる子も出てくるのですが、例外なくチャーミングなんですよね。それはどの子も自分に正直だからなんでしょうね。
方正:やればやるほど、落語が300年以上も続いてきた理由がわかってくるんです。いや、ほんと、落語ってすごいんですよ。