右の車から降りてくる赤いネクタイが浪川総裁

右の車から降りようとする赤いネクタイの人物が浪川総裁

マシンガン、手榴弾、事務所全焼 一般人も犠牲になった抗争

 分裂抗争は、離脱派が圧倒的な不利である。というより、ほぼすべてが失敗している。暴力団社会には、自組織の分裂を回避し、クーデターを防止するため、理由の如何に関わらず他団体の離脱派を認めず、爪弾きにするシステムがある。「親分がいうならカラスも白い」と、トップの絶対性を喧伝するのも、結局はクーデター防止のためだ。

 そのため誠道会は旗揚げ当時から四面楚歌だった。誠道会の初代会長や浪川氏は、それぞれ六代目山口組中核組織の山健組(当時)トップ、ナンバー2と兄弟縁組みをしていたが、彼らは内心、誠道会を支援したくても、組織上、クーデターを認められない。表だって支援ができず、誠道会は最初から最後まで、単身で抗争を乗り切るしかなかった。

 私は2006年の結成式から誠道会を取材しているが、彼らは想像を絶する孤立無縁だった。多くの暴力団がすぐに潰されると予想していた。いつ殺されるか分からぬ緊張感の中、たくさんの組員が辞めていった。幹部たちはもちろん、末端の組員さえヒットマンに狙われた。四六時中、無差別に銃口を向けられる生活は、まともな神経では耐えられなかったはずだ。

 仲間たちが次々に殺された。特に浪川氏は最重要殺害対象で、ヒットマンから執拗に狙われていたはずだ。取材中、道仁会側の車両とカーチェイスになったこともあった。浪川氏は誠道会の若頭として陣頭指揮を執り続け、その後、二代目会長に就任する。

 両者は足かけ8年に渡って抗争を繰り広げ、計47件の事件が発生した。パフォーマンスでしかない乗用車による車両特攻などは行なわれず、最低でもマシンガンで銃撃したり、手榴弾を投げ込んだり、事務所を全焼させた事件ばかりだ。2011年8月、道仁会の小林会長宅に乗り込んだ78歳のヒットマンは、二丁拳銃とマシンガンを所持し、侵入した庭で手榴弾を爆発させるというランボーのような襲撃を実行した。発砲事件が起きれば躊躇なく弾丸を身体に撃ち込み、一般人を含む14人が殺された。幸い一命を取り留めても、頭を撃たれて寝たきりとなったり、銃創が原因で早世した幹部などは数字に含まれない。

 泥沼の抗争にようやく終止符が打たれたのは、2013年6月11日だった。この日、道仁会と誠道会の幹部が久留米署に出頭し、抗争終結の宣誓書と、解散届を提出した。11年前のこの日も、私は久留米署で取材していた。

 当日、記者クラブメディアに対し、暴力団側の要望が伝えられていた。「車のナンバーを映すな」と「警察署を訪問した暴力団に対し、一切質問をするな」という2つである。

 ひとつめは分からないでもない。が、出頭した幹部に質問するなという要望を受け入れられるはずがない。当然、蹴飛ばすと思っていたが、記者クラブメディアはすんなりその要望を受諾した。暴力団を恐れたのか、警察に気を遣ったのかは分からない。どちらにせよ、飼い慣らされたマスコミの従順さは、私をひどく落胆させた。

 ともあれ、こうして抗争は終結し、暴対法による特定抗争指定も解除された。その後、浪川氏は解散した誠道会勢力をまとめ浪川睦会を立ち上げ、現在の浪川会に名称変更して今に至る。

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