ゴールは「生活者としての復権」
回復期のリハビリでは服薬指導に加え、その後の生活について具体的にアドバイスを行う医師を選ぶべきだと中川原医師は続ける。
「回復期には、退院した後に家でどんな生活を送るかまで想定し、準備する必要があります。そもそも『リハビリ』は英語で『re-habit』、すなわち『生活者として復権すること』を意味します。ところが、どうしても本人もご家族も『手足のリハビリ』、つまり身体機能の回復のことばかり考えてしまう。それだけでは家に戻ったときの生活状況はよくならない。
たとえば高齢者であれば、夜間頻尿で睡眠が阻害されていないかを確認することが大切です。なぜなら、夜間に睡眠薬をのんで、もうろうとした状態でトイレに立てば、転倒・骨折の原因になるからです。したがって、何度もトイレに行かないで済むように、水分を摂るタイミングなども指導する必要がある。しかし実際には、入院中から入院後の生活のことまで考えてリハビリを実践できる医師は多くはありません」
前出の渡邊医師も、退院後の生活を想定しながら治療を受ける重要性についてこう語る。
「心身の健康状態や障害の程度を把握し、歩く、読む、書くといった活動をできるかぎり回復させることはもちろん、家庭や仕事、社会においてもともと担っていた役割に、どこまで復帰できるかということも踏まえて、リハビリの内容を計画する必要があります。
しかしそれは医師ひとりでは実現できません。理学療法士や作業療法士、言語聴覚士、ソーシャルワーカー、看護師などのスタッフと、一緒に考える必要があります。チーム医療を実践する体制ができているかを見極めることも、いいリハビリ施設を選ぶ際には大切だと言えるでしょう」
2016年の診療報酬改定では、短い入院期間でどれだけ患者の日常生活能力を高められたかを示す「リハビリテーション実績指数」も導入された。2019年度の全国平均は23.1で、これを上回るほど効率のいいリハビリを行っているとされる。
「病院の運営管理や提供される医療内容やケアの手厚さなどを第三者機関が中立の立場から評価・認定する『病院機能評価』も指標の1つにするといい。実績指数も病院機能評価もホームページで公開している施設が多いため、病院を決める前にチェックしてみることを推奨します」(渡邊医師)
脳や神経にダメージを受けて障害を抱えると、それまで当たり前にできたことに多かれ少なかれ不自由が生じる。しかし、しかるべき病院で医師やスタッフの支えのもと、適切なリハビリを受けられれば可能性は広がっていく。もしものとき、迅速にベストな選択ができるよういまから知識を蓄えておきたい。
(了。前編から読む)
※女性セブン2024年6月13日号