国立循環器病研究センターの調査(2010年の吹田研究)によると、5人に1人が生涯で一度は脳卒中を発症するという。脳卒中は日本人の死因の第4位であり、最悪の事態は免れたとしても、発症すると脳の一部や神経が損傷し、さまざまな後遺症や神経障害を抱えるケースが多い。そこで重要になってくるのがリハビリだ。“最善の脳神経系のリハビリ”について、ジャーナリストの鳥集徹氏がリポートする。【前後編の後編。前編から読む】
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最善の回復を達成するには、患者と家族の理解に加えて、リハビリにかける「頻度と時間」や病院での過ごし方も大切だと、ねりま健育会病院院長で、リハビリテーション専門医の酒向正春医師は強調する。
「当院では朝食から夕食の間で3時間のリハビリを実施し、それ以外の余暇時間にも自主訓練や立ち上がり訓練、気分転換にスタッフと歓談の時間を持つなどして、患者さんにはできる限りアクティブに気持ちよく過ごしてもらえるように工夫しています。
日中であるにもかかわらず、リハビリ以外の時間はずっと患者さんをベッドに寝かせている病院がありますが、それでは回復は望めません。リハビリが終わった後でも、デイルームで座位を保ち、座ったまま横たわらないようにしなくてはいけません。
寝てばかりいると心肺機能や体力、筋力が回復しないだけでなく、夜に深い睡眠を取ることができなくなり、日中ぼんやりして意欲も学習能力も低下する。そんな状態ではどんなにリハビリを行っても充分な効果は得られず、本来回復できるはずの目標まで到達できないのです」
もしリハビリ病院を選ぶことになった場合には、施設を見学する際に、リハビリをしている人以外の患者の様子をチェックするといいだろう。ただし、病院選びに時間をかけすぎるのは本末転倒だ。全国有数のリハビリ病院である熊本機能病院副院長の総合リハビリテーションセンター長・渡邊進医師は言う。
「当院では脳卒中に加え、事故などで脳や神経に損傷を負ったかたも受け入れていますが、いずれも最初の3か月にどれだけしっかりリハビリを行うことができたかが予後を分ける。その後からどんなに一生懸命取り組んだとしても、回復はかなり遅くなります。早く始めるに越したことはありません」(渡邊医師)
リハビリの効果を最大限得るためには薬の量をコントロールすることも重要だと酒向医師は話す。
「高齢になると10錠以上服用している患者さんも少なくありませんが、その中に抗精神病薬や睡眠薬が入っており、副作用で昼間もうとうとして、リハビリに悪影響が出るケースが散見されます。そのため当院では体調を迅速に安定させて薬を極力減らし、多くとも6剤以下に留めることを推奨しています」
脳卒中に加え、難病の脳血管疾患「もやもや病」や高次脳機能障害など、他院では対応しづらい患者を多数診療している梅田脳・脊髄・神経クリニック院長の中川原譲二医師も、服薬管理の重要性を強調する。
「脳卒中の患者さんは、もともと心臓病や糖尿病、腎臓病などさまざまな病気をもっているかたが多い。しかし、リハビリを実施している間は、薬を追加することに慎重になってほしい。たとえば降圧剤によって血圧が下がることで、歩行訓練の途中や入浴中に転倒する可能性もある。そうした服薬に関する相談に乗ってくれる医師であるかどうかも、いい医師を見極めるべきポイントの1つと言えるでしょう」