衆議院本会議で5月30日、国の地方自治体に対する「指示権」の新設などを盛り込んだ地方自治法の改正案が可決された。新型コロナを踏まえ、次のパンデミックなどの想定外の事態に備えた法整備の一環だが、一方では3月末、政治家や厚労省に対して新型コロナ対策を助言してきた専門家組織「アドバイザリーボード」がひっそりと解散した。感染症の専門家への取材を続けてきたノンフィクション作家の広野真嗣氏は「次のパンデミックに向けた法整備を進める段階では、専門家たちが悩みながら政府に対する助言の在り方を変えていった積み重ねの軌跡をこそ公的に検証すべきではないか」と指摘する。
感染症の専門家組織は、国内で感染者が確認された2020年2月に始まり、名前を変えながら政策への助言を続けてきた。当初から専門家への取材を重ね、著書『奔流 コロナ「専門家」はなぜ消されたのか』(講談社)をまとめた広野氏は、「政府と専門家の見解が異なった際にどのような発信が行なわれたのか」が検証されるべきだとして、専門家の発信姿勢を大きく3つの時期に分けてこう解説した。
「第1期は、2020年2月から6月まで。尾身茂さん(新型コロナウイルス感染症対策分科会会長)や押谷仁さん(同分科会構成員)ら専門家が、自ら表に出て発信することで“前のめり”だと批判された時期でもありました。その反省を受けて、2020年7月から12月にかけて発信する機会を減らすスタンスを取った。これが第2期ですが、この時は菅義偉首相(当時)が進めた『Go Toトラベル』への警鐘など、専門家としてブレーキをかけるべきところが遅れてしまった。
感染症対策は行動制限などを伴うため、国民には不人気な政策になりがちです。専門家たちは“それでも感染拡大のリスクが高まれば政治家が対応を決断してくれる”と期待して直接政策に言及することを控えていました。ところが実際に感染が広がると、政治家は有権者の目が気になって国民に痛みが伴う対策に躊躇し、どうしても対応が遅れて後手後手になってしまうのです。
その反省に立って、2021年4月以降の第3期では、再び必要な時には情報発信をするスタンスに切り替えた。オリンピックに対する無観客開催の提言も、このタイミングでした」