韓国と北朝鮮の軍事境界線付近。韓国人の女性経営者がパラグライダー中の不慮の事故で北朝鮮側に不時着。そこで出会った北朝鮮の軍人と、禁じられた恋愛に落ちる──。世界中で大ヒットしたNetflixの人気ドラマ『愛の不時着』だ。しかし実際の境界線付近の上空を飛んでいるのは“汚物風船(ダーティーボム)”だ。
5月28日夜以降、北朝鮮から韓国側にビニール袋をぶらさげた大きさ3~4メートルほどの白色の風船が多数飛来した。
「韓国軍の発表によると、28日夜以降少なくとも1000個近い風船が韓国側に飛んできました。中身は、紙くずや布きれ、たばこの吸い殻のほか、動物の糞のようなものでした。文字通り単なる“ゴミ”です。『朝鮮中央通信』によると、北朝鮮は約3500個の風船で15トンの紙くずを送り込んだと発表し、『韓国に不快な経験を十分に与えた』と国防次官が声明を出しています」(大手紙国際部記者)
風向きが良かったのか、汚物風船は北朝鮮との境界線付近のみならず6月1日以降はソウル全域に飛来。さらには、陸海空軍本部のあるケリョン市やソウルから300キロ以上離れた韓国南東部の慶尚南道でも確認された。なぜ北朝鮮はこのような“嫌がらせ”を行ったのか。
「前段として、韓国の脱北者団体が、風船を使って北朝鮮にビラを散布していたんです。韓国が発展していることが分かるように、K-POPやドラマの映像が入ったUSBメモリーも送っていました。2020年に北朝鮮に融和的だった文在寅政権が風船のビラ散布を禁じる法律を制定していたんですが、現在の尹錫悦政権後の2023年に憲法裁判所で『表現の自由を過度に制限する』として違憲判決が出た。そして脱北団体がまたビラ散布を始めており、今回の汚物風船はその報復措置とも言われています」(同記者)
ロイター通信によると、韓国の脱北者団体は、北朝鮮体制を批判するビラや食料、医薬品、現金、K-POPの音楽やドラマなどが入ったUSBを最近でも風船にぶらさげて送っていたという。
これらの経緯を踏まえ、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記の妹、金与正氏は「汚物風船もまた表現の自由だ」などと揶揄した。今回、北朝鮮がゴミを送ったのは、今までの経緯を受けた“アンサー”なのだ。