岸田文雄・首相はいよいよ土壇場に追い詰められた。焦点の政治資金規正法改正では、岸田首相が公明と維新の修正要求を受け入れ、政治資金パーティー券購入者の氏名公開基準を「5万円超」に引き下げ、政党の機密費ともいえる「政策活動費」にも上限を設けることや、10年後の領収書公開を盛り込んだ。
自民党内には、これに「選挙を戦えなくなる」との不満が渦巻いている。
「企業は名前が出るのを嫌がるから、今後は1枚2万円のパーティー券を2枚までしか買ってもらえなくなる。これでは選挙のカネが集められない」(若手議員)
自民党の閣僚経験者も、「政策活動費のかなりの部分は幹事長らの幹部から選挙が厳しい議員にテコ入れ資金として渡されていた。それが規制されれば、頼みの綱のカネまで断たれてしまう。岸田総理は法案を通すために我々を見捨てる気だ」と吐き捨てる。
政権を支えてきた麻生太郎・副総裁、茂木敏充・幹事長は「党内がもたない」と法案修正に強硬に反対したが、岸田首相が独断で修正を受け入れたことで亀裂が深まった。
菅義偉の“離間の計”
今回の法案修正の陰で動いたのは公明、維新両党に太いパイプを持つ菅義偉・前首相だと見られている。
「菅さんは岸田総理に、法案を通したいなら公明、維新の要求を丸飲みするしかないと両党に橋渡しをした。一見、総理に手を差し伸べたように見えるが、修正に反対だった麻生さんと茂木さんはこれで総理を見限って、総理は党内で孤立した」(前出の閣僚経験者)
岸田首相と麻生、茂木両氏を切り離す“離間の計”だったという見方だ。
その菅氏は、裏金問題で処分を受けた安倍派の萩生田光一・前政調会長、二階派の武田良太・元総務相、そして茂木派の加藤勝信・元官房長官の“HKTトリオ”に接近、国会閉会後のポスト岸田政局をにらんで動いているという。
党内に支える者がいなくなった岸田首相は9月の自民党総裁選での再選は困難な情勢。かといって衆院補選以来、静岡県知事選などの首長選挙でも連敗中で解散・総選挙も難しい。
「麻生・茂木ラインと菅氏ら反主流派はポスト岸田に誰を担ぐかの思惑は違っても、岸田首相による解散総選挙は絶対阻止するという点では一致している」(政治ジャーナリスト・野上忠興氏)
そうした状況を朝日新聞は「岸田首相、今国会中の解散見送りへ」(6月4日付朝刊)、読売新聞は「秋の総裁選前の解散・総選挙見送りへ」(6月5日付)と報じた。
だが、それでも岸田首相はなんとか起死回生の解散・総選挙の可能性を探ろうと国民への「減税アピール」に躍起になっている。
※週刊ポスト2024年6月21日号