2026年開催のW杯本戦出場に向けて、サッカー日本代表の戦いが続いている。サッカーの試合の観戦中はボールの行方や両チーム合わせて22人の選手の動きに目を奪われる一方、ゲームを捌く「主審」に注目する人は少ないかもしれない。1試合の走行距離は選手以上になるという、他競技と比べても過酷なサッカー審判の仕事について、日本人初の「W杯開幕戦」主審を務めた西村雄一氏に、『審判はつらいよ』の著者・鵜飼克郎氏が聞いた。(全7回の第3回。文中敬称略)
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試合のピッチにいる審判員は、主審の他に2人の副審、第4の審判員がいるが、試合進行や反則の判断など、試合に関するすべての決定の権限は主審にある。ピッチの両サイドに配置された副審は旗を使ってオフサイドやアウトオブプレーについて合図を示すが、その最終決定は主審に委ねられる。第4の審判員は選手交代やアディショナルタイムの表示など試合進行に関わることをサポートし、主審や副審が試合のジャッジに集中できるように環境を整える。
全国規模の大会は長辺(タッチライン)105メートル、短辺(ゴールライン)68メートルの長方形のピッチで行なわれるが、主審はその広いエリアを1人で動き回りながら、両チーム合計22人が絡むすべてのプレーを判定する。この「受け持つ範囲の広さと人数の多さ」こそがサッカー主審の特徴であり、難しさでもある。
テニスやバレーボールのようなネットスポーツの審判(主審)は、椅子に座ってジャッジするのでプレー中に動くことはない。競技エリアの広さではサッカーを上回る野球だが、ストライクとボールの判定がメインとなる球審の移動範囲はごく限られ、他の塁のジャッジは塁審に委ねている。
格闘技の審判の動きは激しいが、相撲は直径4.55メートル(15尺)の円内、柔道は9.1メートル四方(国際大会は8〜10メートル四方)の正方形内で競技が行なわれ、そこにいる選手は2人だけ。しかも1勝負の時間は数秒から数分程度だ。
広大なスペースを長時間走り回り、激しく動く選手たちのプレーを途切れることなくジャッジをするサッカーの主審について、他のスポーツの審判が「信じられない」と口を揃えるのも頷ける。
国際審判員を42歳で退任後、現在はJFA(日本サッカー協会)のプロフェッショナルレフェリーとしてJリーグで審判員を務める西村雄一が言う。
「主審の動きには“法則”があります。2人の副審とバラバラに動くのではなく、主審がピッチの対角を軸に動き、副審は主審の位置から遠くなるサイドのタッチラインの半分を担当します。その配置であれば主審と副審が異なる角度から競り合いを見ることができ、3人の誰かが常にボールの近くにいられるわけです」