5月場所初日に横綱・照ノ富士を破った大の里(右)は48本もの懸賞金を手にした(写真・JMPA)
大の里の中・高・大の1学年先輩で兄弟のように仲が良い白熊と、尾車部屋への体験入門で嘉風(当時)に稽古をつけてもらったことがきっかけで尾車部屋に入った麒麟龍が移籍しないという発表に関係者の間では驚きが広がっている。二所ノ関一門関係者が言う。
「この世界では異例の話です。通常、内弟子は部屋付き親方が独立の時に一緒に連れて出ることを前提に、部屋の師匠に預けるかたちをとっている。もちろん明文化されておらず、あくまでも慣習、口約束です。しかし、師弟関係を重視する角界ではそれが常識。
今回、独立にあたり中村親方は内弟子全員に考えを確認したそうです。すると白熊と麒麟龍が残留の意思を示したという。白熊と中高大と同級生で双子のようだと言われていた幕下・嘉陽は移籍することになった。来場所は新十両の嘉陽だが、今場所は大の里の付け人をやっており、5月場所は大の里、白熊、嘉陽の3人が毎晩のように焼き肉に出掛けてゲン担ぎをしたほど仲がよかった。大の里は残ってほしいと希望していたようで、最後は白熊が自分の意思で残留を決めたという。部屋の環境でいえば稽古相手に大の里もいる二所ノ関部屋は抜群。嘉陽も残りたかったのでしょうが、角界の慣習で移籍を決意したのだと思われます」
中村部屋は両国国技館のすぐ側にある元陸奥部屋の建物に入ることになり、茨城に立地する二所ノ関部屋とは大きく違う環境での立ち上げとなる。
「中村親方としては内弟子を残していくことに忸怩たる思いだろうが、独立を認めてもらえたことのほうが大きいのだと思う。あれだけ手が合っていた二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)と手が合わなくなったと聞きます。中村親方は指導においてすぐに口を出したくなるタイプだといい、特に大の里が入ってからは、二所ノ関親方が自分のやり方で弟子を育てたいとの考えを強め、方向性が違ってきていた。
当初は引っ越し先の元陸奥部屋の改装工事などで9月場所後の独立とみられていたが、7月の名古屋場所前に前倒しされたことと、大の里の出世が想定より早かったことは、無関係ではないのではないか」(前出・二所ノ関一門関係者)
宮城野親方の今後に影響も
白熊と麒麟龍の残留は大相撲の慣習から考えると異例中の異例の出来事だ。「内弟子が独立時についていかない」という前例ができた意味は大きいという。協会関係者が言う。
「これから様々な場面に影響してくる話です。まず思い浮かぶのは元横綱・白鵬の宮城野親方の今後。弟子の不祥事で宮城野部屋の親方、力士は伊勢ヶ濱部屋に吸収されたかたちだ、いずれ処分が解けて宮城野部屋の再興した時に、もともと部屋にいた力士たちを連れて“再独立”することになる。この時に伊勢ヶ濱部屋に残りたいという力士が出てきたら、認めるしかないという話になるわけですから」
元宮城野部屋の力士は伊勢ヶ濱部屋への転籍後に引退が相次いでいる。転籍時のみならず、5月場所後も4人が引退した。宮城野親方にとっての試練も続きそうだ。
※週刊ポスト2024年6月21日号
史上最速Vを決めた大の里(時事通信フォト)