「この数年はコントロールが格段によくなった」ドジャース・山本由伸(時事通信フォト)
“球審として”目撃した山本由伸の進化
橘高が“球審として”凄さを感じたのが、元オリックスの山本由伸だ。2023年には400勝投手・金田正一以来となる3年連続での沢村賞を受賞し、ポスティングを経て現在はMLBのロサンゼルス・ドジャースに活躍の舞台を移している。
「球審にとってやりづらいのは、コントロールが一定しない投手と、ベース付近で球が微妙な変化をする投手なんです。デビュー直後の山本投手は球威抜群でも荒れ球が目立ちましたが、この数年はコントロールが格段によくなりました。
球審は試合の最初に“このコースはストライク”という枠を決めて、試合の中でストライクゾーンが変わらないようにします。ところが荒れ球が多いと球審の目が落ち着かなくなり、枠が微妙にズレてしまうことがあります。そうなると微妙なコースをストライクにしにくくなる。1球目が高めに外れ、2球目がワンバウンドになったりすると、そのあと外角ギリギリに決まっても手が上がらないのです。山本投手のように球がまとまっていると、外角いっぱいとか低めいっぱいといったコースがきれいに“線”で見える。そうすると気持ちいいぐらい自信を持ってコールできるんです」
一流のピッチャーは一流の審判を育てる──審判歴38年の橘高がたどり着いた結論だ。
プロ野球審判を38年務め、史上19人目となる3000試合出場を達成した橘高淳氏。2022年に引退した(撮影/杉原照夫)
※橘高淳氏の「高」の字は正しくは「はしごだか」。『審判はつらいよ』(小学館新書)より一部抜粋・再構成
【プロフィール】
鵜飼克郎(うかい・よしろう)/1957年、兵庫県生まれ。『週刊ポスト』記者として、スポーツ、社会問題を中心に幅広く取材活動を重ね、特に野球界、角界の深奥に斬り込んだ数々のスクープで話題を集めた。主な著書に金田正一、長嶋茂雄、王貞治ら名選手 人のインタビュー集『巨人V9 50年目の真実』(小学館)、『貴の乱』、『貴乃花「角界追放劇」の全真相』(いずれも宝島社、共著)などがある。プロ野球、サッカー、柔道、大相撲など8競技のベテラン審判員の証言を集めた新刊『審判はつらいよ』(小学館新書)が5月31日に発売。