圧倒的な権力で相手をねじふせようとする昭和の匂いのするパワハラ、モラハラ的な香川さんの演技よりも、さらに歪んで屈折した意地悪さや執念深さが増している。それは野村さんの狂言からくる演技によるところが大きいのではないだろうか。通常、役者の演技や表情にはスポーツでいうところの予備動作、車のハンドルでいう遊びがあると思う。目が潤み鼻がかすかに動く泣きそうな表情、頬や口角が上がり始める喜びの表情など、ドラマや映画を見ていると、表情が瞬時に切り替わっているように見えて、案外、次にどんな顔をするのか、どのような表情を見せるのか想像がつく。
ところが野村さんの表情にはこの予備動作や遊びがなく瞬時に切り替わる時がある。表情と表情の間に能面のような無表情が挟まるため、次の表情が読めなくなることもある。顔芸のごとく目を吊り上げ、口を大きく開けた途端、蝋人形のように表情から感情が消え失せてしまう。だからますます不気味になる。。予想ができないほど鮮やかに切り替わる表情は、彼が演じる役柄につかみどころのない複雑さやどこが底なのかわからない奥深さを与えているのだろう。
思う存分、余すところなく悪徳検事正役を演じている野村さん。『アンチヒーロー』最終回、長谷川さん演じる明墨弁護士とどんな対決をみせてくれるのか、締めの演技が気になるところだ。