1974年、綿あめをなめる子供たち(イメージ、時事通信フォト)

1974年、綿あめをなめる子供たち。1974年(イメージ、時事通信フォト)

綿あめやお面はもう売れない

 ケバブ屋のそばで空の台車を押していた男性が幹部に気が付き、台車を自分の方に引いた。時々、幹部の顔を見ておっという表情をする男たちがいる一方、一般人は祭りや露店に夢中だ。身体が触れあうほどの近さですれ違っても、その人物を気にかける者はいない。無理やりベビーカーごと幹部の前に割り込むように入ってきた若い夫婦に「すみません」と幹部が謝り、路地の角で道をふさぐように立つ若いカップルの脇を「ごめんね~」と言いながら通っていく。その度に幹部は背中を丸めて頭を軽く下げるが、一般人は彼のことを気にする様子もなくスルー。その後ろでは先ほどの台車の男が、幹部の足に台車をぶつけないよう数センチという微妙な距離を取りながら、ゆっくりと台車を押していた。

「古きよき祭りの文化みたいな店は少なくなった。綿あめやお面はもう売れない。露店も流行に左右される。コロナ前はあんなに多かったトッポギやチーズホットクは見かけなくなった。今年は何が流行るだろう」(幹部)。外国人観光客目当てか和牛の串焼きの露店が多く出ているが働いているのは外国人。隣でベビーカステラを焼いていたのも外国人。だが店の前に客はいない。「テキヤも人出不足でね。どこも手っ取り早く外国人を雇っているが、昔からあるベビーカステラやたこ焼きを外国人が焼いていてもピンとこない。人がいればそれで済むと思うのは間違いだ。だからベビーカステラや綿あめなど技術が必要な店に、人を出してくれないかと頼まれることもある」と話すが、出せるのは経験のある元組員にだという。

 目的の店にたどりつくと「こんちは~。どう?」と手を動かしていた若者に声をかけ、冷たいドリンクを差し入れた。「うちの若いの」と幹部はいうが、現役ではないらしい。ベビーカステラを焼く甘い匂いがふんわりと漂う店の前には長蛇の列。若者は小さな紙袋にカステラを詰めると、「これ」といって幹部に手渡した。「俺食べないよ」といいつつ受け取った幹部は、「向こうに挨拶してくる」と店を離れた。回転盤の前に戻った若者の手際はリズミカルだ。「あの1樽で20万円になる。売れる時は丸一日で4樽は出る。腕が痛くなるがね」という。

 暖かいベビーカステラを口に放り込みながら幹部が歩き出す。冷やしキュウリの店の前で輩のグループが立ち止まっていた。後ろから押された幹部がそのうちの1人にぶつかりそうになると、男は振り向きざまに「なんだぁ」とばかりに睨みを利かせたが、幹部の顔を見るなり虚勢を崩し頭を軽く下げた。知り合いではないようだが、似た者同士の匂いがするのだろう。男が身体をずらして道を譲るが、そこに外国人観光客が入り込んでくる。

 別の店にも顔を出すが、こちらは閑古鳥が鳴いていた。店先にいたシニア男性は元組員、やる気がないのか椅子に座ってボケっとしていた。幹部が声をかけるまで気が付かず、慌てて立ち上がり頭を下げた。ぬいぐるみを売る店の前にくると幹部は「姐さん、こんにちは」と、中を覗き座っていた女性に声をかける。姐さんと呼ばれた女性が「あら~久しぶり、元気だった」と奥から顔を出して立ち上がった。威勢のいい姐さんは、何本もの露店を仕切っているテキヤの親分の妻だという。

「昔は俺たちも一緒に神輿を担げたらから知り合いも多かったが、今はね」という幹部に、通りで挨拶する者も声をかけてくる者もいないが、その筋の者は暗黙のうちに互いをチェックしていたようだ。声を出さなければ周囲にいる人たちは誰も気が付かない。自分の隣を現役幹部が歩いていたなど、一般人も観光客も知る由もなかった。

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