2014年W杯開幕戦(ブラジル-クロアチア)でPK判定を下しクロアチア選手に詰め寄られる西村主審(時事通信フォト)
ブラジルW杯開幕戦の「PK判定」
カードの掲示と並んで主審が目立つ場面、それはPK判定だ。1点の重みが大きいスポーツだけに、得点・失点の可能性が極めて高いPKはゲーム展開を大きく左右する。
西村が主審を務めた試合で、世界的に注目されたPK判定がある。2014年のブラジルW杯、日本人として初めて開幕戦で笛を吹いたブラジル対クロアチア戦だ。
1-1で迎えた後半24分、ペナルティエリア内でボールを受けたブラジルのFWフレッジが、クロアチアのDFロヴレンに後ろから抱え込まれるような形で転倒する。西村はこのプレーをファウルと判定した(ロヴレンにはイエローカード)。与えられたPKをブラジルのFWネイマールが決め、それが決勝点となった(最終スコアは3-1)。
注目の開幕戦、しかも優勝候補の地元ブラジルが苦戦している状況での判定は議論を呼んだ。世界中のスポーツ番組でそのシーンが繰り返し放送され、敗れたクロアチアのコバチ監督は「W杯の審判ではない」とまで西村を批判した。
西村は淡々と振り返る。
「後方から手をかけたホールディングの事実はあり、その“程度”について意見が分かれたケースでした。PKと判定して批判されましたが、逆にPKと判定しなくても批判されたでしょう。どちらの判定をしても納得されない出来事に、たまたま主審として遭遇してしまったということで、その出来事が起こらなければ“運がよかった”ということです。それでも、あの時に手がかかっている事実を見極められなければ、クオリティの低いレフェリングとなります。10年近く経った今も、あの決定に後悔はありません」
サポーターからのブーイングも…
審判歴30年以上、数え切れないほどのジャッジをしてきた西村だが、たった一度の判定が後世まで物議を醸す。「不条理だと思いませんか?」と訊ねると、「それがサッカーであり、レフェリーの役割ですから」と穏やかに答える。
「実は審判の視点から見ると、W杯レベルの試合は戦術やプレースタイルが完成されているトップ選手同士のゲームなので、ピッチ内で起こることが比較的予測しやすいんです。
Jリーグなどで、選手たちの闘志が?き出しになった試合のほうが難しいかもしれません。普段のパフォーマンスをはるかに超えるプレーを創り出し、負けられないという思いが高まりすぎて、競い合いではなく“戦い”になってしまうことがあるのです。そうなるとファウルの判定も非常に難しくなってきます」