2010年のサッカーW杯南アフリカ大会では4試合で主審を務め、2014年のブラジル大会では日本人として初めて開幕戦の主審を務めた西村雄一氏。的確なレフェリングは各国の賞賛を受けたが、ブラジル大会の開幕戦(ブラジル・クロアチア戦)で下したPK判定は、試合後もクロアチア側からの猛批判を浴びた。しかし、西村氏は現在も「後悔していない」と言う。スポーツを長年取材する鵜飼克郎氏が聞いた。(全7回の第6回。文中敬称略)
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サッカーでは反スポーツ的行為や遅延行為、チャンスが期待されるような局面を妨害する反則などがあればイエローカード(警告)が提示され、著しく不正なファウルや乱暴な行為、相手の得点や得点の機会が阻止される反則などではレッドカード(退場)が掲示される。プレーヤーが1人減るレッドカードは言うまでもないが、たとえイエローカードでもディフェンダーが激しいコンタクトを躊躇うようになるので、チーム戦術に制約が生じかねない。
ゲーム展開を一変させる判定であるが、競技規則にはカードの対象になるかどうかの個別具体的な記述はなく、やはり主審の主観に委ねられている。それゆえに「1試合平均で何枚のイエローカードを出したか」が、選手やファンからのその主審に対する評価に?がることもある(「枚数が多い主審は悪い」という意味ではない)。サッカー中継やテレビのスポーツニュースで主審が大映しになるのは、大概が「カードを示すシーン」である。
主審がクローズアップされる「カード」について、数々の国際試合で笛を吹いてきた西村雄一はやや意外な見解を口にした。
「カードの枚数が多い選手は“悪い選手”と見られる傾向がありますが、必ずしもそうではありません。与えられたポジションの役割やゲーム展開によっては、チームを救うための“覚悟のイエローカード”もあるわけです。
例えば、コーナーキックをクリアされてカウンター攻撃を受ける場面で、自チームのディフェンダーが相手ゴール前に上がっていて守備側が数的不利な状況であれば、ファールを冒してでも止めるしかないというプレー選択が予測できます。この“カード覚悟のプレー”でファウルがあれば主審は当然イエローカードを示します。こうした展開が起き得ることはボールをクリアされた時から両チームの選手も理解しているので、イエローカードを示したとしてもどの選手も納得してくれます。
選手が選択するプレーを“評価”するようなことを言うのは好ましくないのかもしれませんが、選手のプレーには必ず理由がある。それもまたサッカーの本質の一部。サポーターにはそういうところまで見てもらえると、サッカーの楽しみ方が広がると思います」