「90年は振り返ればあっという間でした」(撮影/平野哲郎)
著書の一編「歯に衣着せずに」にはこんな一節がある。
《飾らないこと。それがいまの私にとって、きれいに生きること。女優人生も私の人生も、あともう少しで終わりでしょうから、歯に衣着せないで、言うだけのことを言って消えて行こうと思っています》
そんな書きぶりも、自らを“暴れ猪”と断じる愛子先生と重なる。愛子先生は著書『九十歳。何がめでたい』で、《人間は「のんびりしよう」なんて考えてはダメだということが、九十歳を過ぎてよくわかりました》と綴った。草笛さんは90歳になって何を思ったのか。
「老いとは億劫との戦い、なんです。『よし、明日の朝から散歩をしよう』と決めても、目が覚めると『朝から暑いし』なんて言い訳が浮かぶ。年を経るごとに億劫が平気になって、自分を甘やかして、だらしなく緩むようになっていく……でもそれじゃあダメですからね。やっぱり愛子先生と同じで、のんびりはせずに、1週間に1回はトレーニングをしたり、なんてことをやっていますよ」
今回の映画は昨年10月から約2か月にわたって東京・大泉の東京東映撮影所で撮影が行われた。記者が行った日には、愛子先生が親しい人に送っていた年賀状の仮装写真を孫・桃子役の藤間爽子と実際に撮影。「天国のお母さんに合わせる顔がない」と言いながら、幼稚園児や落ち武者など次々と衣装を変えて控室から出てくる草笛さんのチャーミングなこと! ぜひ劇場の大画面で観てもらいたい、ですよね?
「『かわいい』なんて声をかけられても、おへそが曲がって馬鹿にされているような気分になって、天国のお父さんお母さんはどう思っているかしらなんて思っていたんです。でも、監督に『愛子先生が実際にやっていたんですから』と何度も説得されて(笑い)、実際の年賀状を拝見しながら近づけるように努力しました。
私は女優なのでやり始めると真剣になってしまうの。90歳の私の精一杯をぜひ観てもらいたいわ」
■映画『九十歳。何がめでたい』6月21日(金)全国ロードショー
小説『晩鐘』を書き上げ、断筆宣言をした90歳の作家・佐藤愛子(草笛光子)は、何もすることがなくなり、鬱々とした日々を過ごしていた。同じ家の2階に暮らす娘・響子(真矢ミキ)や孫・桃子(藤間爽子)には、そんな愛子の気持ちは伝わらない。同じ頃、大手出版社に勤める編集者・吉川真也(唐沢寿明)は、昭和気質なコミュニケーションがパワハラ、セクハラだと問題となり、謹慎処分に。妻や娘にも愛想を尽かされ、悶々とする日々を過ごしていた。そんなある日、吉川が在籍する女性誌「ライフセブン」で愛子の連載エッセイ企画が持ち上がる。すったもんだの末に、吉川は愛子を口説き落として連載がスタート。発売した単行本『九十歳。何がめでたい』が大ヒットして──。
全国353館で公開 監督:前田哲 配給:松竹
インタビュー撮影/平野哲郎
※女性セブン2024年6月27日号