将棋界という枠を超え、国民的な関心事となっている藤井聡太八冠の快進撃。2023年10月に八冠を制覇し、いまだにその牙城を崩す棋士は現れていないが、この状況を現役棋士がどう見ているのか。第3回として、斎藤慎太郎八段に話を聞く──。将棋ジャーナリストの松本博文氏が寄稿した。【全3回の第3回。第1回を読む】
──50代の底力について
羽生(善治)九段は会長に就任されて誰よりもお忙しいと思いますが、むしろ状態を上げられている印象があります。新会館建設の実現をモチベーションに将棋もハツラツとされている感じですね。
──円熟の40代について
(棋聖挑戦中の)山崎(隆之)八段には、私が奨励会三段の頃から研究会で長く教わっています。誰にも真似できない序盤の自由さと、中終盤の腕力の強さで、もっとタイトルに挑戦されていても自然かなと思っていました。逆転術が得意な山崎さんが、逆転されることの少ない藤井さんに対しどう戦うのか注目しています。
(これから王位に挑戦する)渡辺(明)九段は、技術の高さはもちろんですが、決断力や勝負どころの嗅覚が卓越されていると感じます。私との対局でも(挑戦者決定戦の中盤)勝負と踏み込まれてこちらがひるんでしまいました。
──隆盛の30代について
(ここ最近のタイトル戦では、王座戦で永瀬拓矢九段、王将戦で菅井竜也八段、名人戦で豊島将之九段が敗退)私より先行している同年代のかたがたが届かないという結果でしたので、藤井さんの強さを改めて感じましたし、私もこのままではいけないと思うところがありました。一局一局で見ればどちらに転ぶかわからない対局はありましたし、まだまだ30代で藤井さんに挑戦する構図を自身も含めてできるようにと思います。
──破竹の20代以下について
藤井さんより年上でも、成長過程の棋士は多くいると思います。現在の活躍度から挙げると、増田(康宏)八段や服部六段あたりでしょうか。伊藤(匠)さんは藤井さんとのタイトル戦を重ね、苦しみながらも前進しているところが素晴らしいと思います。この年齢でここまで来られているので、いずれタイトルを獲得されるのが自然と思いますが、藤井さんがいるのでどうなるかというところです。
関西には有望な新鋭が多く、私から見て10才以上年齢が離れた棋士がいよいよ出てきたという感じです。藤本(渚)五段や上野(裕寿)四段は、藤井さんよりも年齢が下になりますね。結果も出していて今後の期待感は充分です。ただ20、30代の棋士の層が厚いので、すぐに抜け出すのは大変とは思います。現役奨励会員とは年齢が離れてしまい、交流がないのでわからないところです。(竜王戦6組で準優勝した)山下(和毅)三段の棋譜を見ると終盤力に才能の片鱗を感じさせられました。
(了。第1回から読む)
【プロフィール】
斎藤慎太郎八段/2015年に新人賞、勝率一位賞を受賞。2018年に王座獲得。第79・80期順位戦で名人挑戦権獲得。奈良県出身で「西のイケメン王子」の愛称も。31才。
松本博文/将棋ジャーナリスト。東京大学将棋部在籍中より将棋書籍の編集・執筆に携わる。名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力し、「青葉」名で中継記者を務める。『ルポ 電王戦』で第27回将棋ペンクラブ大賞文芸部門賞を受賞。『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』『棋承転結 24の物語 棋士たちのいま』など著書多数。
※女性セブン2024年7月4日号