カンボジア・プノンペンのアパートから押収された携帯電話など。2023年11月(時事通信フォト)
「年に数回、お寺にいって懺悔さえすれば罪は許される」
カンボジアで詐欺被害にあっても「犯人が誰か明確にわかっていれば、逮捕するのは簡単、警察に金を払って頼めばいい。そういう点でいえば、騙されてもワイロ次第で解決することができる。実際、話が違った、騙されたという相談は多いですよ」とS氏はいう。観光客が騙される事件も多く、特に日本人観光客が銀行で換金してきた100米ドル札を巡るトラブルは多いらしい。
「米ドルは偽札が多いこともありますが、店で100ドル札を出すと、まず店員が電気や光で透かして確認。偽札かもしれないから確認すると店の奥に入っていく。そこで渡した本物の100ドル札を偽札と交換し、店頭に戻って観光客に何食わぬ顔で”OK”と偽札を渡すんです」。この対策としてS氏は、100ドル札を使う前に札の番号を写真に撮ってから渡したほうがいいとアドバイスする。
だがそれ以上に特殊なのは司法の状況らしい。S氏は「カンボジアにはワイロや不正が多いですが、実は契約社会。契約は相互にきっちり交わす。契約書にはサインより拇印。ただカンボジアは翌日に法律を変えてしまうような国。ゴタゴタすることは多く、訴訟を起こして裁判となればやはり費用はかかります。ただそれは裁判費用というより、むしろ”裁判官費用”です。裁判官1人につき、だいたい500ドルは最低払います」。裁判官を金で買収するというより、ワイロを払わないと裁判がスムーズに進まないということのようだ。
カンボジアの司法制度は三審制。日本も三審制をとっており第一審、第二審の控訴審、第三審の上告審となる。「三審制だから裁判の度に、裁判官にワイロを払わなければならなくなる。日本でいうなら第一審で簡易裁判所や地方裁判所、第二審で高等裁判所、第三審で最高裁判所です。カンボジアも司法制度は同じで下級裁判所から高等裁判所へ移っていくのですが、その度に裁判官に金を払う。それも裁判に関わるすべての裁判官に払うことになる」と、S氏が指を折りながらその人数を数える。「だから、カンボジアの弁護士は、訴状に尽力するよりも、まず、裁判官との折衝が仕事なんです」という。
そのような状況についてカンボジア人はどう思っているか。S氏は「金を持っている人から金を取るのを当然と思っている人が私の周りでは少なくないんです。年に数回、お寺にいって懺悔さえすれば罪は許されると思っている人もいる」。特殊詐欺グループがここを拠点にしてしまうのも、そんな背景があるからだろうか。