病気を治すためにのんだはずの薬だが、「のみすぎ」によってかえって体を悪くしてしまうこともある。適切な量の薬を服用するために、減薬は重要だが、間違った減薬はのみすぎと同じくらい害悪にもなる。やめるべきできではない薬もあるのだ。適切な減薬のために重要なことを専門家に聞いた。【前後編の後編。前編から読む】
優先順位をつけ、ステップを踏んで行う減薬が有用である一方、服用をやめることが“毒”になる薬もある。医療法人社団こころみ理事長で精神科医の大澤亮太さんが言う。
「特に気をつけるべきは精神科で処方される薬です。無理に減らせばめまいや頭痛など離脱症状が出るものもあります。精神科に限らず、減薬は知識と経験を持った専門家でなければ難しいが、最近は“薬はいらない”と喧伝して患者を呼び込もうとする“減薬ビジネス”も横行している。安易に薬をやめさせ、その代わりに高額な自由診療をすすめるクリニックすらあるのです」
大澤さんが声を大にして警鐘を鳴らすのは、「減薬ビジネス」の餌食になり、症状が悪化した患者を目の当たりにしたからだ。
「服薬治療で幻覚・幻聴などの症状が安定していた統合失調症の患者さんが、減薬をやみくもにすすめる自由診療のクリニックにかかって薬をやめた結果、再発したことがありました。
統合失調症は難しい病気ですが、最近はよい薬が開発されているので、しっかり服用すればコントロールできます。しかし途中で薬をやめると、1年以内に7〜8割が再発する。症状がぶり返すと、残念ながら完全な回復は難しくなります」(大澤さん)
精神科の薬に限らず、治療が困難な病気の症状や進行を抑えている薬も、減らすことで体が蝕まれていく。愛知医科大学地域総合診療医学寄附講座教授の宮田靖志さんが言う。
「代表的なのは、パーキンソン病や心不全の薬です。それらの病気の症状は服薬しているからこそ抑えられている。やめると悪化し、命にかかわるケースすらあります」(宮田さん)
減らすことが重篤な状態を引き起こす可能性のある薬に加え、北品川藤クリニック院長の石原藤樹さんは「リバウンドのある薬」の減薬も慎重にすべきだと話す。
「精神安定剤や睡眠薬などは、急にやめると反動で症状が悪化することがあります。エストロゲンなど、更年期障害の治療時などに処方されるホルモン剤も同様です。減薬は年齢や症状、本人の意思などを総合的に判断して取り組んでいくもの。減らす対象になる“必要のない薬”は一人ひとり違うのです」
そのため、副作用などのリスクが懸念される薬であっても、自分にとって症状を緩和するために手放せないのであれば無理にやめる必要はない。
「例えば『刺激性の便秘薬は依存性があるからよくない』とよくいわれていますが、いざ薬をやめて“出ない”状態が続くのは苦しいし、便秘もひどければ腸閉塞で命を落とす危険がある。副作用に注意しながら様子を見つつ服用するのもひとつの選択肢だといえます」(石原さん)