誰かをマウンティングせずに批評するにはどう書けばいいか
「自己啓発書へのアレルギーみたいなものは、学生時代の私にもあったと思うんですけど、今はそういう分断をつくっていいのかな? という問いかけをしていきたいです。
本が好きとか、読書が趣味ということ自体がマウンティングや、誰かに優越感を示す材料になりやすいというのは、読書の歴史を見ていても気づきます。マウンティングへの拒否反応は、特に若い世代には強いので、書き方によっては読書そのものが嫌われかねません。誰かをマウンティングせずに批評するにはどう書けばいいかというのは、常に考えていることですね」
そのうえで、「読書は人生の『ノイズ』なのか?」という章を設けている。自分と関係がない情報を「ノイズ」ととらえるなら、読書はノイズだらけの無駄が多い行為のようだが、自分と離れたところにあるものに触れることこそが教養なのだと三宅さんは書いている。
今回の本は、出版社のウェブサイトで連載していたときから反響が大きかったそうだ。会社員時代、三宅さんはウェブマーケティングの部署にいたそうだが、本を出すときに何か試みたことはあるのだろうか。
「特別な仕掛けはしていないですが、連載で読んでくださっていた方が本になったときにすぐネットで反応してくださったのが、今回の本では特に大きかったと思います。新書って書きおろしが多いですけど、連載で読者をちょっとずつ積み上げるようなことも実は大事なんじゃないかと気づきました」
批評よりも、本が売れるような紹介を求められる状況が続いているが、今年30歳になったばかりの三宅さんは今後も批評の仕事を続けていきたいという。
「時代に逆行しているとは私も思っています(笑い)。考察と批評をよく私は対比するんですけど、今の時代は考察が人気で、作者が正解を持っていて、どうやってその正解にたどり着くかみたいな世界観が主流なんですね。それに対して批評は、こちらが文脈を読み取ったり解釈したり、作者が正解を持っているわけではないという立場です。時代精神みたいなものを語ると『エビデンスはどこにあるんだ』と言われたりするので、それをやりたがる人はいないし、なかなか受け入れられない時代だと思いますけど、私は批評がすごく面白いと思っていて。こういう本で面白さを伝えて、なんとか30代をサバイブしたいですね」
【プロフィール】
三宅香帆(みやけ・かほ)/文芸評論家。1994年生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了(専門は萬葉集)。著作に『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない—自分の言葉でつくるオタク文章術—』『文芸オタクの私が教えるバズる文章教室』『人生を狂わす名著50』など多数。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2024年7月25日号