「歯は健康の生命線」といわれるが、一度失えば戻ってこない。虫歯や歯周病に加え、もろくなった歯で硬いものを食べたり思わぬ事故やけがをしたり──さまざまな理由で失われる歯を補う方法を知っておけば、人生の後半戦のQOL(生活の質)は大きく上昇する。確かな腕と熱い心を持った「最強の歯科医」を、ジャーナリストの鳥集徹氏と『女性セブン』取材班が総力取材した。【前後編の後編。前編を読む】
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入念に検討を重ね、入れ歯を作ってはみたものの満足できないという場合には、インプラントも選択肢に入ってくる。その場合、最初に大きな問題となるのが、入れ歯と同じく「どの歯科医師、歯科医院を選べばいいか」だ。
特にインプラント治療は例外を除いて原則的に自由診療となるため、保険診療だけでは経営が厳しいデンタルクリニックが、利益を得るために技術や経験が浅いにもかかわらずインプラントに手を出すケースがあると指摘されている。電車の車内や街角のビルで「インプラント」の文字が書かれた広告を目にすることもよくある。中には線路や道路沿いに、大きな看板を出している歯科医院もあるが、それらの内容を信じていいのだろうか。
のべ2万本以上の手術を執刀してきたインプラント治療のエキスパートである、ひかり歯科医院の堤隆一郎歯科医師はこう話す。
「資本主義社会ですから、そうした広告を否定するつもりはありません。ですが、もし『簡単で楽な治療です』といったことを前面に出しすぎているようであれば問題です。
インプラントは歯ぐきを切開し、顎の骨の中にチタン製の人工歯根を埋め込む手術を行います。腕を骨折したら皮膚を切って骨を露出させ、それにプレートやボルトを埋め込む手術が必要な場合がありますよね。インプラントの手術も規模は違えど、していることは同じです。麻酔もしますし、抗生剤などの薬剤も使います。
ですから、私たちが治療にあたるときも患者さんの決定を急かすことはありませんし、体に多少なりとも負担がかかることもきちんとお伝えします。簡単だとか楽だとかいうことを、あまりにも前面に押し出している歯科医院は要注意だと思います」
また、相場より治療費が安すぎるのも問題だ。堤歯科医師が続ける。
「治療費を抑えるために、どこかでコストを省いているはずです。例えば、品質の低いインプラントや、安い材料の人工歯を使っているかもしれません。また、当院は歯科麻酔の専門医含め5人のスタッフで手術していますが、治療費が安い歯科医院は人件費を抑えるため、優秀な医師やスタッフが充分そろっていない可能性が高い。
そのような歯科医院で治療を受けると、いざトラブルが起こったときに、患者さんは『こんなはずじゃなかった』と後悔することになるかもしれません」
適切な配慮のもと治療が行われれば、健康的な状態を長期間保つことができる一方で、インプラント治療によるトラブルも多く報告されている。ブローネマルク・オッセオインテグレイション・センター院長の小宮山彌太郎歯科医師が解説する。