王監督からも労われた(写真/共同通信社)

王監督からも労われた(写真/共同通信社)

「思わずバットが出た」記録を阻んだ男・大石大二郎の胸中

 9人目の打者としてオールスター戦で江川卓と対峙し、連続三振を8で止めた大石大二郎にも、“あの打席”について聞いた。

 * * *
 あの1984年のオールスターは、まだプロ4年目だったかな。

 40年前のことなんでもうほとんど覚えてないですけどね(笑)。とにかくオールスターといえば一流のバッターばかり。それがどんどん三振の山を築くので、ベンチにいた時は「やっぱり江川さんの球は速いのかな」と思って見ていました。

 打席に立ってからは「真っ直ぐ」を狙って待っていましたが、初球はアウトハイの直球に(タイミングを)さされて手が出なかった。2球目の直球は「少し低いのかな」と思って見送ったが、余裕でストライクでした(笑)。後で映像を見たら低いというより、アウトコースで真ん中よりやや低めの良いところに決まっていた。

 これでツーストライクと追い込まれた。3球目も直球を狙っていたんですが、思いがけずフワッとカーブが来たので、思わず身体が反応してバットが出た。「打ってしまった」って感じです。

 よく「当てにいった」と言われますが、あくまで真っ直ぐ待ちでカーブに反応して打ったという形です。

 ひとつ伝えたいのは、「9人目だから絶対に三振しちゃいけない」という考えはなかったということです。三振だったらしょうがないなって。

 2イニングで6者連続となってたしかに球場もベンチも盛り上がっていましたが、だからといってパ・リーグのベンチで「三振をするなよ」って言われるといったことはなかったです。

 今振り返っても、あの日の直球は速かったし、伸びてましたね。

(了。前編から読む

【プロフィール】
江川卓(えがわ・すぐる)/1955年、福島県生まれ。作新学院にて活躍後、法政大学に進学。米・南加大野球留学を経て、1978年に読売ジャイアンツに入団。MVPなど多数の記録を残し、1987年に引退。現在は野球解説など多方面に活躍中でYouTubeチャンネル「江川卓のたかされ」が話題。

中尾孝義(なかお・たかよし)/1956年、兵庫県生まれ。滝川高から専修大に進学。卒業後はプリンスホテル入社。1981年に中日ドラゴンズに入団。ルーキーイヤーから活躍し、1982年にはMVP。巨人、西武を経て1993年に引退。西武コーチや阪神スカウトなどを歴任後、現在は野球解説などで活躍中。

聞き手/松永多佳倫

※週刊ポスト2024年8月2日号

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