解説者の椅子をめぐる複雑な事情
北の富士氏のVTRの後を継いだアナウンサーは、今場所のこの後は北の富士氏が“お休み”となり、東京で中継を見るとのことだと伝えた。初日の向正面の解説は舞の海周平氏で、「私も久しぶりに北の富士さんを拝見しまして、嬉しかったし、ホッとしましたね。解説をする時は、北の富士さんならこういう場面でどう考えるのかな、どうコメントするのかなと想像しながら解説をさせていただいております」と言葉を継いだ。
歯に衣着せぬ解説で人気を博す北の富士氏の“復活”に喜びの声が聞こえてくる一方、北の富士氏が健在であることは、各方面に影響を及ぼすことになりそうだ。
若手親方のひとりは、「これは尾車さん(元大関・琴風)へのメッセージでもあるでしょう」と話す。
尾車親方は2022年4月に65歳で定年退職となり、退職後は再雇用の参与となった。70歳の誕生日まで協会に残るとみられていたが、「老兵は消えるのみ」といって年寄名跡を佐渡ヶ嶽部屋に奉還するかたちをとった。前出・若手親方が続ける。
「現在、尾車さんはスポーツ報知の専属評論家をしている。同紙では元横綱・白鵬の宮城野親方がメインでやっていたが、弟子の北青鵬の暴力事件もあって現在は休載中。そのため、尾車さんが『元大関・琴風の目』としてメインの評論家になっている。“老兵は消えるのみ”とは、角界から離れるという意味ではなく、むしろしっかり食い込もうとしている。
その先にあると見られていたのが、NHKの大相撲中継の専属解説者です。現在は北の富士さんと舞の海さんが務めているが、北の富士さんが体調を崩してからは親方衆が日替わりでフォローしている。NHKは後任選びも考えなくてならない状況だが、そこに尾車さんが売り込んでいた。
水面下にあるその話に舞の海さんは賛成の意向だったとされるが、それを耳にした北の富士さんにとっては“顔じゃない(分不相応)”という話で、今回のVTRの出演に至ったそうです。9月の秋場所からは北の富士さんが復帰予定ですが、アナウンサーから振られた舞の海さんのコメントの歯切れの悪さが目立っていた。事情を知っている協会関係者は中継を見て笑っていました」
八角理事長(元横綱・北勝海)が誕生した背景には、師匠である北の富士氏の協会内での影響力があったといわれている。北の富士氏の九重部屋を部屋ごと購入した八角親方を支援し、理事長になると北の富士氏の発言力がさらに増したともいわれる。元尾車親方がそうした力を持つのは、まだ先の話のようだ。