2022年3月、「人を殺した」と浪速警察署に自首してきた中田正順(まさゆき)被告(逮捕当時39)が住んでいた部屋から、血を流して死亡している22歳の女性が発見された。女性の死因は中田被告からゴルフクラブで多数回殴られた末の失血死で、そのうち頭部顔面には18か所もの傷があった。だが、のちに殺人で起訴された中田被告は法廷で「殺意はなかった」と主張。地裁判決ではこれが認められ、傷害致死罪で懲役10年の判決が言い渡されている(求刑懲役16年)。
女性は夫のDVから逃れるために別居し、シングルマザーとして娘を育てるため風俗店で働くうちに、違法薬物に手を染めた。薬物依存を断ち切るための入院を控えていたが、新型コロナウイルス感染拡大により予定が延びてしまう。入院が可能になるまで女性を預かると名乗り出て、同居していたのが、事件を起こした中田被告だ。
この事件については、中田被告の逮捕が報じられたのみで、女性の抱えていた背景や、裁判員裁判の様子などが一切報じられていない。女性の母親は「理不尽なことがあったと知ってほしい」と語る。
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中田被告にゴルフクラブで殴られて亡くなったのは、一時的に中田被告の元に居候していた辻上里菜さん(当時22)。2022年3月23日、中田被告が浪速警察署に自首したことから、事件は明るみに出た。警察が里菜さんの遺体を発見した時点で、すでに死後数日が経過していたという。
「娘はゴルフクラブで60か所以上を殴られて失血死していました。頭部を中心に傷があったそうです」
そう語るのは里菜さんの母親だ。特に頭部を多数回、ゴルフクラブで殴られていたことから、里菜さんの亡骸とは、顔の修復作業ののちに対面した。
「手首をひねって叩いただけ」
「綺麗にしてもらった娘を葬儀場に運ばれてから見ましたが、マネキンみたいで娘と思えなかったんです。顔をなでようとしたら、葬儀会社の人に『お顔が崩れるから触らないでください』と言われて……。2日後にお通夜があり、それまでの間、待機場所で娘と過ごしました。死装束を着せている際に傷を確認したら、腕には防御創といわれるような傷があり、あざだらけ。なぜか足もあざだらけでした。分厚く死化粧されていましたが、それでも傷がわかるくらいに、娘の受けた被害は大きかったんだなって……」(里菜さんの母親。以下同)
声を詰まらせながら里菜さんの母親は当時を振り返る。看護師として働き、里菜さんを含め3人の子を育て上げた母親は、事件後は「社会に出るのが怖くて仕事もできない」状態となった。それでも約2年が経ち、ようやく裁判の日程が決まった頃、里菜さんが亡くなった当時の写真を見せてもらったという。
「検察官も『僕も職業柄、遺体を見てきたがそんな自分でも目を背けるような姿でした。それでも見ますか?』と言うんです。覚悟を決めて、『見ます』と言って見せてもらった娘の姿は、かなりショッキングでした。でも、私からすれば亡くなったと知らされたときのショックのほうが大きかった。むしろ、ありのままの姿を見たことで、こういう形で命を奪われたんや、と分かりました」
今年1月、ようやく迎えた大阪地裁での裁判員裁判。真実を知りたいという思いで里菜さんの母親も毎回傍聴したが、法廷での中田被告の言い分に絶望した。
「ゴルフクラブで殴打したという事件でしたが、加害者は『ゴルフクラブを持って手首をひねって叩いただけ』と言うんです。検察官に見せてもらった傷の写真を思い出しながら、手首をひねるくらいでこんな傷ができるわけがないと感じたんです。相当な力を持ってないとここまでの傷はできないですよ」