故郷の奄美群島区から徳田虎雄氏が衆院選に初出馬したのは1983年

故郷の奄美群島区から徳田虎雄氏が衆院選に初出馬したのは1983年

 そして栗本は評した。「汚くないウンコ」みたいだった、と。

 たしかに徳田は世の常識や法など屁とも思わない狼藉者であり、キワモノであり、特に政治絡みの無法な所業の数々は断じて認め難い。しかし一方、すべては幼き日の悲哀を原点とする「絶対善」と評せる目的のためであり、現実にそれを実現させてもきた。徳田を蛇蝎のごとく嫌う鹿児島の医師会幹部ですらこう語ったのだ。「素直に認めざるを得ない部分もある。鹿児島の離島医療を徳洲会が担っているのは事実だから」と。

 そんな徳田がALS=筋萎縮性側索硬化症を発症したのは2001年。全身の筋力が徐々に失われ、最後は意思表示すら困難になる難病に病院王が罹患したことを、いまは亡き石原慎太郎は「現代の英傑」に「神が与えた試練」だと大袈裟に評して涙ぐんだ。

 一方の徳田は、すでに眼の動きでしか意思を伝えられなくなった2011年時点での私の取材に「これからが人生の勝負」「あと5年は私が体制を作る」と豪語し、実際に病室からグループ経営を指揮し続けていた。

 だがそのわずか2年後、徳洲会は公選法違反容疑で東京地検の大々的捜査を受け、徳田は理事長の座を追われた。過去の所業を思えばむしろ遅すぎた感もあるし、以後の約10年、徳田が何を想いどんな日々を送ったか、直接訊く機会を持たなかったのは心残りでもある。

 いずれにせよ、傍若無人なキワモノである一方、「絶対善」の目標へと猪突猛進する、徳田のような人物が現下のこの国に生まれることはないだろう。法令遵守やらコンプライアンスやらの号令ばかり声高に叫ばれる昨今、それが良いことか悪いことかは別として、少し寂しく私は感じたりもしている。

【プロフィール】
青木理(あおき・おさむ)/1966年、長野県生まれ。ジャーナリスト。共同通信でソウル特派員などを務め、2006年からフリーに。本誌で2011年に『トラオ 徳田虎雄 不随の病院王』を連載。近著に『時代の反逆者たち』。

撮影/太田真三

※週刊ポスト2024年8月2日号

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