組織行動学者のジェフリー・フェファーは『権力を握る人の法則』(日本経済新聞出版社)で「権力は心理的にも肉体的にも中毒になる」と書いている。一度手にすると、それを手放すのは難しいのだ。バイデン氏の場合、それに加えて高齢からくる衰えという事実を受け入れ、認めるのが不快で、無意識に無視してしまう「否認」が働いたのかもしれない。
永田町界隈には不祥事や問題を起こし批判され非難されようとも、利己的に政治家という地位を頑なに守ろうとする者もいる。老害と言われようと、政治家として築き上げた権力にしがみついている者が何人もいる。権力は中毒になる。ましてそれが一国のトップで、次も己がと熱望していれば、その座を諦めるという決断への苦悩はいかほどのものだろう。
だが岸田首相にその心配は必要なさそうだ。首相に就任直後、「人の話をよく聞く」のが特技と語っていたが、その真骨頂は「究極の鈍感力」だからだ。
首相の鈍感力には定評がある。これまでも様々なメディアや数多くの識者やジャーナリストらが、その力を評価してきた。2024年4月25日の産経新聞オンライン版に掲載された「究極の鈍感…岸田首相は非凡か平凡か」というコラムでは、文芸評論家の小川栄太郎氏が『Will』で岸田首相の資質を一種強烈な鈍さ表し、「愚直なまでに自分のペースを崩さない。吹き荒れる悪罵や世論調査の数値に全く関係なく仕事に集中できる」と指摘したと紹介している。内閣官房にいる知人も「いい意味でも悪い意味でもあの鈍感さは普通ではない」と語っていた。鈍感ゆえに事実を否認する必要がないのも特技かもしれない。
次の総裁候補にこれ!という人材がいない自民党。世間で次にと名前の挙がるような者は有識者には人気がない。7月23日のNEWSポストセブン『有識者が選ぶ「ポスト岸田に選んではいけない政治家ランキング」1位に小泉進次郎氏「弁舌はさわやかだが中身がない」「大混乱を招いた鳩山由紀夫氏に匹敵」の評も』に詳しいが、諸手を上げて総裁選へと担げる人材がいないのだ。
このままでは次期衆院選に勝てないとの見方が大半の自民党。バイデン氏では無理だと語ったオバマ前大統領のように、その役目を果たすのは首相経験者か自民党の重鎮か。誰が岸田首相の首に鈴をつけるのか。