「こうなるもっと前に、早く手を打てなかったのかなと思いますね」──元日本体操協会副会長の塚原光男氏(76)は、パリ五輪に体操女子日本代表として出場予定だった宮田笙子(19)の一件について聞くと、神妙な面持ちでそう語った。
「彼女のことは中学の時から知っていて、才能は抜群でした。どちらかと言うとヤンチャ、負けず嫌いでね。どのスポーツでもそういう強さがないと。こういう形になったのは残念です」
五輪3大会で5つの金メダルを獲得したレジェンドで、息子・直也氏もアテネ五輪の金メダリスト。長く“体操界のドン”として君臨してきた塚原氏は、女子選手に対するパワハラ騒動【※】の後、任期満了で副会長の座を辞した。5年経った今なお、体操への思いは強いようだ。
【※2018年に体操女子日本代表の宮川紗江氏が、塚原氏と塚原氏の妻で女子強化本部長(当時)の千恵子氏に指導者交代の強制や引き抜き行為を受けたと告発。夫妻は職務停止処分を受けたが第三者委員会の調査で「パワハラはなかった」と認定、解除された】
7月19日、日本体操協会は宮田に飲酒・喫煙の規約違反があったとして出場を辞退すると発表。異例の事態に宮田が所属する順天堂大は「出場もあり得ると考えておりました」と声明を出した。
塚原氏は決定について、複雑な胸中を明かした。
「もちろん社会的なルールで考えると問題なのは間違いない。ルールの中で処分を決めるべきだし、僕がとやかく言う立場ではない。でも嗜好の問題だからね。男はみんな吸うよ、昔から。体操選手だからということじゃなくて、みんな大学入ると酒やタバコを覚えさせられるでしょ。それと一緒」
その上で、古巣の姿勢に疑問を呈した。
「ああいうことにならないように、事前に指導するのが体操協会や指導者の責任ですから。私はそっちのほうに問題があると思う」
かつてのドンの指摘に、協会はどう応えるのか。
※週刊ポスト2024年8月9日号