セリ会場の周辺に設けられた馬主さんの席にお邪魔して、先週おめでとうございましたとか、今度はがんばりますとか。また、ここで縁ができて、馬を預けていただけるようになったりしたこともあります。あるいは牧場や育成場の関係者には、管理馬の様子を詳しく聞いたり、来年以降の方針を話し合ったり、新種牡馬についての情報交換をしたり……。
競馬場だとレースがあってバタバタしているので、なかなかこういう距離感で会うというのは少ないのです。お目当ての馬がしばらく出てこない間は時間もあるし、馬産地なのでリラックスした服装でじっくり話せます。
ありがたいことに蛯名厩舎では、今年のセレクトセールで落札された馬を何頭か預からせていただくことになりました。本稿校了後には北海道市場のセレクションセールもあります。セリで落札された馬に限らず、良血馬や高額馬をお預かりできるのは、やはり厩舎としてのイメージアップになるので、とてもうれしいものです。プレッシャーも責任感もありますが、スタッフも含めて気が引き締まる思いがしますし、それが厩舎力をあげていくことにつながると信じています。
【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。この連載をベースにした小学館新書『調教師になったトップ・ジョッキー~2500勝騎手がたどりついた「競馬の真実」』が発売中。
※週刊ポスト2024年8月2日号