1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、セレクトセールについてお届けする。
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日本列島が「酷暑」のニュースであふれていた7月8日(月)と9日(火)、気温20度台半ばで比較的さわやかだった北海道の苫小牧市で、今や世界一の規模を誇る競走馬のセリ市、日本競走馬協会主催によるセレクトセールが行なわれました。
セールの結果については、すでに報じられているように、2日間合計で落札頭数(455頭)、落札総額(289億1800万円)とも過去最高だった昨年をさらに上回りました。1歳馬の最高価格は5億9000万円、今年の春生まれたばかりの当歳馬に最高4億1000万円の値が付き、1頭の平均落札価格が6000万円以上というから驚きですが、それだけ日本の競馬界が安定して世界のトップに君臨しているという証です。今年は日本生産馬の海外での活躍に加え、円安の影響もあってか、海外からも多くの購買者が訪れたようです。
日本の場合、レースではジョッキーが脚光を浴びることが多いのですが、セリ市の主役は馬主さん。とくにセレクトセールで億単位の馬をセリ落とすような馬主さんは、もちろん馬や競馬が大好きなわけで、スケールの大きなギャンブラーだと思います。それぞれの仕事で成功を収めて、自らの事業を大きくしてきた方たちばかり。ビジネスでも究極の経営判断をしてきており、ここぞという時の勝負強さがあるようです。
ジョッキー以上に負けず嫌いいなので、徹底的にその馬のことを調べて、欲しいという馬はとにかく値が高くなってもおりない。1億円を超えて1000万円単位で値が上がっていっても、競っている相手から「1億5000万円!」のコールがあると、すぐに「1億6000万円!」と返していく。その胆力は並大抵のものではありません。日本の競馬はそういう方々に支えられているのだと、改めて感謝の気持ちでいっぱいになりました。
そういった緊張感あふれるセリとは別に、セレクトセールは、馬主さんをはじめ、生産牧場や育成場関係者、調教師、騎手などのホースマンが一堂に会する社交の場でもあります。