平均寿命が延び世界でも指折りの超高齢社会となっている日本。“老老介護”は65歳以上同士の夫婦や兄弟姉妹間での介護を指す言葉とされるが、近年は“超老老介護”という言葉も生まれた。75歳以上同士の“老老介護”がそれに当たる。被介護者だけでなく、介護をする側も高齢による体や心の不調を抱えているケースも多く、社会問題となっている。
東京地裁で6月20日、ある刑事裁判の判決があった。世田谷区にある3階建ての都営住宅で夫婦2人暮らしをしていた吉田友貞さん(80)は2023年10月1日頃、自宅で妻の節子さん(当時85)の首を絞めて殺害した。東京地検は「妻の言動に腹を立てての犯行で、強固な殺意に基づく」として、懲役7年を求刑していた。しかし、地裁の島戸純裁判長は、吉田被告は“超老老介護”によって「自覚のないまま疲労や疲弊感を蓄積させた」として情状酌量の余地があると判断し、懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡した。
長年寄り添った妻の命を奪ったという悲惨な事件。殺人罪の法定刑の下限(5年)を下回り執行猶予がついた異例の判決の背景には何があったのだろうか。殺人現場でもある吉田さんの自宅をNEWSポストセブンの記者が2人で訪問すると、吉田さんは時折涙を見せながらもしっかりと取材に応じた。【全5回の第1回】
小学生の頃は全校生徒を代表して答辞を読んだ
吉田さんは身長160cmくらいの痩せ型だ。年季の入った薄い青色のポロシャツに、白色のズボンで、どこにでもいる優しそうなお爺さんという印象だった。とても妻をその手で殺した殺人犯には見えない。慎重に言葉を選びながら話す吉田さん。しかし取材が進むと、心を許してくれたのだろうか、さまざまな感情も垣間見えた──。
吉田さんは妹2人、姉1人の4人きょうだい。唯一の男性として、1943年に生まれた。
「現在の大田区の蒲田で生まれました。もう戦争も末期じゃないですか。お祝いに配給で鯉が入っていたようでね、親も栄養状態が良くはないわけだから、母乳が出るようにね、鯉の生き血を飲ませるとか、そういう時代でした」