スター不在と叫ばれてきたこの夏、秋田に思わぬ新星が現われた。金足農業の2年生エース・吉田大輝。2018年に地方大会から甲子園の決勝途中までひとりで投げ抜き、“カナノウ旋風”を巻き起こした吉田輝星(現オリックス)の弟だ。
7月21日の秋田大会決勝で、大輝は秋田商に16安打を浴び、5失点を喫しながらも、154球で完投。兄に肩を並べるタフネスぶりでカナノウを6年ぶり7度目の甲子園に導いた。大輝は言う。
「16安打されたことはこれまでもあるかもしれませんが、記憶にはないです。兄さんは2年の夏は甲子園に出られなかった。そういった意味では兄さんを超えたと思いますが(笑)、投手としてはまだまだ及びません。甲子園までちょっとの時間しかありませんが、すべての試合を自分が投げきって抑えるというイメージで練習していきたい」
大輝は何もかもが兄と瓜二つだ。顔立ちから、力感のある投球フォーム、マウンド上での股割りのルーティン、ロジンバッグの扱いや真っ白なマウスピースの色まで……。
「最初は真似することで成長していったんですけど、年を重ねるにつれ、自分なりの投げ方を追求してきました。ただ、結局似てきましたね(笑)。股割りは完全に兄さんを真似てます。自分にも合ったストレッチなんで」
甲子園準優勝を果たした兄と同じ道を歩むことで、当然ながら周囲は同じような成功を期待する。それが重荷になることもあったのではないか。
「最初はちょっと怖いなと思ったんですけど、すべて自分の意思で決めたことですから覚悟していました。2年生になってからは注目されることが多くなり、それなりにプレッシャーはあったんです。だけど、冬に雪の上を走り込んだりして、自信を持てるようなトレーニングを積んできたので、あとは自分を信じて投げるだけだと割り切れるようになりました」
大輝は小学1年生で野球を始め、5年生の時に甲子園のスタンドから兄を応援、テレビ中継にも登場した。中学時代は軟式野球部に所属しながら、週末は硬式のクラブチーム「ネオグリッターズ」でもプレーした。軟式と硬式の二刀流など珍しいケースだろう。扱いの異なるボールを投げ続けるのは肩やヒジへの負担が大きいために敬遠されがちだ。
「自分は指先が器用なほうなので、そこはぜんぜん気にならなかったです」