「基地を笑え!」──沖縄が抱える歴史は複雑だが、そんなコンセプトを掲げてコントとして表現するお笑い集団がいる。戦後79年を迎える今、彼らの挑戦と胸中に、ノンフィクションライターの中村計氏が迫った。
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今日イチ──。お笑いの世界では、その日、いちばんウケた人や場面をそんな風に表現することがある。
沖縄では、そのシーンはいつだって「今日イチ」だった。
ヤンバルクイナの親子が、人間世界の観察にでかけるというコント中でのこと。冒頭で、ソファーに寝転がっている太り気味の若者が登場する。チップスを食べながら、携帯をいじっている男を眺めた親子は、こんなやりとりを展開する。
子「あれは誰?」
母「軍用地主の息子よ」
このセリフが導火線となり、大爆笑が起きる。笑いが収まると、こんな説明が続く。
母「憧れの存在なの。国からガッポガッポお金が入ってくるのよ」
ここで再び大爆笑。
「軍用地主」と言われても県外だとピンとこない人のほうが多いに違いない。この場面で爆発的な笑いが起きるところに、沖縄人の鬱積した思いが潜んでいる。
沖縄に『基地を笑え!お笑い米軍基地』という舞台を上演する大人気のコント集団がいる。旗揚げは2005年だ。今年、20年目を迎えた。企画、脚本、演出、製作総指揮を一手に担うのは那覇市出身の芸人「まーちゃん」こと、小波津正光である。
喜劇王と呼ばれたチャールズ・チャップリンを敬愛する小波津は、彼の〈人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ〉という名言をたびたび引き合いに出す。
「沖縄も同じなんですよ。沖縄には悲しい歴史もある。でも、東京で活動していたときに気づいたんです。ちょっと引いて眺めてみたら沖縄そのものがコントなんだな、と」
小波津が最初に考えたコントは『人の鎖』だった。人の鎖とは、基地反対運動のうちの一つで、大勢で手を繋ぎ基地を取り囲むパフォーマンスのこと。コントの中では人数が足りず、鎖が繋がりそうで繋がらない。それを何とかしようとドタバタが起きるのだが、最後、ようやく繋がりかけたところで参加者の一人が帰ると言い出す。理由を聞くとこう答えるのだ。
「このあとね、嘉手納カーニバルに遊びにいく」
ここでどっと笑いが起きる。嘉手納カーニバルとは何万人もの客を集める基地開放イベントのことだ。小波津が言う。
「沖縄の人は『基地はんたーい!』って言いながら、基地内で働くことに憧れたり、カーニバルを楽しみにしている。その矛盾を矛盾と思っていない。僕たちの舞台を観て初めて気づくんですよ。そうそう、そういうところあるよなって」