高校生を翻弄する魔物の正体
プロ野球のスカウトが注目する選手たちが、甲子園では思わぬミスや、不振にあえぐこともある。
その一方で、2007年の佐賀北高校のように無名の公立高校が強豪校を負かし、優勝することもある。
これらは“甲子園の魔物がいるから”といわれるが、選手はどう見ているのか?
PL学園時代に投手として甲子園で活躍したフリーアナウンサーの上重聡さんは、実際に戦った経験から、次のように語る。
「確実に甲子園には魔物がいると思います。魔物は味方にも敵にもなってくれますが、その正体は観客の皆さんだと思っています。
われわれPL学園が、1998年に松坂(大輔)率いる横浜高校と延長17回を戦ったときも、観客の皆さんから、『お前ら、このままでは終わらないだろ、もっと見せてくれるだろう』と言われているようでした。まだまだ精神的に不安定な高校生が、観客の皆さんが醸し出す雰囲気に背中を押されてホームランが打てたり、逆に、重圧に感じてうまく球が投げられなくなる。
これが、魔物の正体じゃないでしょうか」(上重さん・以下同)
高校野球の応援には、学校独自の応援歌や応援スタイルがある。
「ピッチャーは、相手校の応援歌を聞きながら投げることになるんです。私は自分が投げているときに横浜高校の応援歌が聞こえてきたので、それを口ずさみながらピッチャーマウンドに立っていました。相手校の応援なのですが、自分を応援してくれていると思って、投げていたんです。
松坂も同じことを言っていましたね。彼は、PL学園の応援歌を口ずさんでいたから、“いまだに歌える”と言っていました。甲子園ピッチャーあるあるかもしれませんね(笑い)」
【プロフィール】
小野塚康之/1957年東京生まれ。1980年にNHK入局以来、野球の実況を担当。著書に『甲子園「観戦力」をツーレツに高める本』(中央公論新社)がある。
上重聡/1980年、大阪府出身。PL学園高校時代は甲子園に3度出場。立教大学時代には東京六大学野球史上2人目となる完全試合を記録する。2003年に日本テレビに入社。今年4月よりフリーに。
※女性セブン2024年8月8・15日号