パリ五輪で不可解な判定が相次いでいるが、とりわけ物議を醸したのが、柔道男子60キロ級の永山竜樹(28)とスペインのフランシスコ・ガリゴス(29)の試合だ。主審はメキシコのエリザベス・ゴンザレス氏(37)。同氏が「待て」を宣告後もガリゴスは数秒間、絞め技を継続して永山が失神。一本負けした。なぜ、このような事態が起きたのか。柔道、サッカー、ゴルフなど様々な競技の審判員に取材した『審判はつらいよ』(小学館新書)の著者でジャーナリストの鵜飼克郎氏がレポートする。
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永山対ガリゴスの一戦で主審を務めたゴンザレス氏。選手としての実績はなく、18歳から審判の道を歩んで2021年に国際審判員になったというキャリアの持ち主だ。
一方、拙著『審判はつらいよ』にも登場し、長年にわたり国際審判員を務めた正木照夫氏(76)は、全日本選手権に10度出場した経歴を持つ。正木氏は1984年に全日本柔道連盟の審判員となった後も55歳になるまで大会に出場する選手生活を続け、「柔道界の鉄人」と呼ばれた。その正木氏に今回の騒動について見解を聞くと、こう答えた。
「国内の試合でもあんな下手(な判定)はないですけどね。2000年のシドニー五輪での篠原信一が銀メダルに泣いた“世紀の誤審”も競技経験が少ない審判員でしたが、百戦錬磨の選手でないとわからないことが少なくない。机上で競技を勉強した審判員に起こりやすいミスです。実体験がないので締め技や関節技などの奥深いところが見えない。実戦を経験した審判員なら“絞まっている”とか“効果がない”とかを容易に見極められる。しかし、彼女はそれができないから状況がわからないまま時間が経過してしまったんだと思います。
また、ガリゴス選手は『待て』の声が聞こえなかったと言っていましたが、確かに観衆が多いとよくあることなので、審判員は選手の耳元で大きな声を出し、それでも止めなければ腕や背中を叩いて伝えるのが基本中の基本。それで緩めなければ逆に反則負けとなります。これをやっておけば永山は半落ちになることはなかったでしょう。それが競技経験が少ないと『待て』と声を出しただけで止まると思ってしまうのです」