国民に負担増を強いる一方、そうして国が得た税収は、費用対効果の低い“カネ食い虫”の公共事業に流れていた──資材や人件費の高騰が問題になるなか、巨額予算の動く公共事業はその影響を大きく受ける。国交省が予算をつけている全国400以上の道路・新幹線を調べると、事業費が増大し、費用対効果が激減しているものが数多くあると判明した。ノンフィクション作家・広野真嗣氏がレポートする。【前後編の前編】
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大型公共事業が曲がり角に差し掛かっている。
1987年に決定された高速道路1万4000キロの計画はほぼ完成し、手付かずなのはわずか700キロ。田中角栄をして「地域開発のチャンピオン」と称した新幹線は、1988年に比べ1.5倍の距離まで伸びた。
見逃せないのは、国土交通省の公表資料を分析していくと、いずれの事業も投下資金が膨らむばかりになっている事実である。
直近の道路事業の6割で「費用対効果(B/C)」は悪化していた。その主因である事業費に着目すると、当初の想定から増えた建設費の総額は1.5兆円にものぼり、当初の予算から3倍に膨張した事業もある。
「B(ベネフィット=便益)/C(コスト)」は、投下した建設費などに対して移動時間を短縮したり、経費を節減したりする効果がどれだけ発生するかを数値化した指標だ。「1」を上回れば、コストを上回る効果が得られる目安となり、事業着手の判断の指標になってきた。だが、条件を満たすと判断されて工事が始まっても、後になって「1」を割り込んで続行されている例が相次いでいる。
最近の資材高騰に加え、今年の賃上げを考えれば、この傾向はさらに深刻化するに違いなく、元国交事務次官の谷口博昭氏は、「転換点に差し掛かっている」と警鐘を鳴らす。公共事業にどんな変化が起きているのか──。
2024年度に国が予算執行中の412の直轄国道事業を検証すると、B/Cが「1未満」の事業は59もある。いずれも過年度からの継続事業で、この10年間の事業費とB/Cの変化をチェックしたのが掲載の図だ。B/Cの下落幅が大きい順に30位までを掲載した。
ワースト1は、長野県の「一般国道18号 坂城更埴バイパス(延伸)」。上信越自動車道と並行して走る国道をバイパスする無料の高速道路だ。
2.6キロの区間の事業費は当初は69億円の予定だったが、2.4倍の166億円に膨らんだ。他方、2.5あったB/Cは0.8にまで落ち込んだ。理由について、関東地方整備局長野国道事務所の担当者はこう言う。
「トンネル部分を掘り進めると硬い岩が出てきて、ダイナマイトによる発破が必要になりました。軟弱地盤も見つかって、その対策も必要になった」