落語芸術協会役員も務めた。左から春風亭柳橋さん、会長の桂歌丸さん、桂さん(時事通信フォト)

落語芸術協会役員も務めた。左から春風亭柳橋さん、会長の桂歌丸さん、桂さん(時事通信フォト)

自分が高座に上がると「若い人の出番が減る」

 91歳当時の米丸さんは月10日程度の高座に上がっていたが、何歳まで続けるのかを聞くと、こんな言い方をしていた。

「私はみんなの前でしゃべっているだけで幸せですが、若い人の出番が減りますからね。そういうことも考えてしまうことも。“いつまで年寄りがやっているんだ”と思われているだろうから、多少はセーブしている。高座を見ていると、若い人もうまくなったと思いますね。うかうかしていられない。でも、いいネタが浮かぶと、お客さんにしゃべってみたくなるんですよね。だから今は無理をせずに自然に任せている。

 ただね、最近よくないのは、わかりきっていることが(言葉で)出て来ない。あれ、あれ、あれですよ…と高座でもやってしまう。ところが、それが客にバカウケしちゃう。自然にど忘れしたことがお客さんもわかったんでしょうね。これを演出的にやるとダメだったと思うが、これがウケるのも90歳のジジイだから。なんか複雑な気持ちですね(苦笑)」

 若い落語家について聞いてみると、こんな話をした。

「若い人でベテランの間を真似する人がいるが、若者らしくもっとポンポンと早口でやったほうがいいかもしれないですね。私も若いころはかなり早口で、お客さんから“米丸は忙しい”と言われたことがある。それで師匠に相談すると“でもそれでいいんです。歳をとるとゆっくりになってしまう”とね。

 若い人がベテランの真似をしてゆっくり話すとわざとらしくなってしまう。だから落語は難しいが、年齢に相応しいネタをやればいいんですよ。師匠はお婆さん役が十八番だったが、私には“あまりお年寄が出ない話を選び、出てきてもあまり活躍せず、目立たないようにしたほうがいい”とアドバイスしていました。若い人? うまいなと思いますね。だからこんな年寄りはあまり前に出ないほうがいいと思うこともある」

 SFやホームコメディなど新作落語一筋だった米丸さん。なぜ新作落語を手掛けたかにも話は及んだ。

後編に続く)

■取材・文/鵜飼克郎(ジャーナリスト)

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