中学時代に飛込競技を始め、16歳でアジア大会に初出場。五輪にはメルボルン、ローマ、東京に出場した飛込競技界のレジェンド・馬淵かの子氏。夫の馬淵良氏、娘の馬淵よしの氏も飛込競技の五輪代表選手だった。引退後は指導者となり、審判員の資格を取得。夫とJSS宝塚スイミングスクルールを立ち上げ、寺内健など多数の五輪選手を育てた。一昨年の水泳世界選手権で日本人初の銀メダルに輝き、今回のパリ五輪でもメダル獲得が期待された高飛込の玉井陸斗選手もその一人。86歳の現在も指導者を続ける馬淵氏に、『審判はつらいよ』の著者・鵜飼克郎氏が聞いた。(前後編の後編。前編を読む。文中敬称略)
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多くのスポーツで導入されている映像判定。「最高の飛込」を機械が決め、跳躍の高さや角度、回転スピード、水しぶきの量や音を測定すれば公平な判定ができるのではないか。採点競技の代表格ともいえる体操競技では、2023年の世界選手権(ベルギー・アントワープ大会)から、全種目でAIによる採点支援システムが導入された(審判団の意見が食い違った時と、選手からの問い合わせ時に参照する)。
だが、現状では飛込競技で導入の動きはない。中学時代に飛込競技を始め、16歳でアジア大会に初出場。五輪にはメルボルン、ローマ、東京に出場し、引退後は指導者となり審判員資格も取得した「飛込競技界のレジェンド」馬淵かの子が言う。
「飛込の採点では“演技全体の印象”が最重視されます。コマ送り映像は演技を細分化して解析するには優れているかもしれませんが、全体の印象は審判員の目で判断するしかありません。
ただし、10メートル高飛込の足元などは映像確認を導入してもいいと思います。先端で2度飛び上がると“危険な行為”として2点の減点となりますが、審判員席からは肉眼ではっきり確認できません。確認できないまま減点されてしまうケースもあるので、足が台から離れたらライトが点くようにしたらどうかと提案する審判員もいます。採点の概念を守る前提であれば、テクノロジーの導入は考えていいと思います」(以下同)
フィギュアスケートなどでは「ビジュアルも採点に影響する」という噂がまことしやかに囁かれてきた。飛込でもそうした話はあるのか馬淵に訊ねたところ、「女子の試合で男性審判員が“あの子は美人だね”なんて言っているのを聞いたことがあります。採点が甘くなっているのかもしれません」と苦笑いするが、こう続けた。
「スタイルがいいと動きがシャープになりますが、背が高いと不利になる。飛込台から入水までの空間はどの選手も同じですから、空間を有効に使うには小柄なほうがいいでしょうね。私も現役時代に“もう少し背が低いほうがよかったのに”と言われましたが、身長は変えようがありません。もちろん体重が重くてもダメだし、胸やお尻が大きいと入水が難しくなる。男子選手のほうが入水姿勢はとりやすいでしょうね」