ネットの、とくにSNSでの誹謗中傷はたびたび社会問題として注目を集め、対策や対処法について議論になるが、いまだ有効な方策は見えないままだ。そんな状態で始まり、閉幕したパリ五輪は、組織委員会や選手団、選手やスポンサーなどが今まで以上に多く投稿したSNSを楽しむ五輪でもあった。その一方で、無名の個人アカウントから発信される誹謗中傷の多さにもげんなりさせられる五輪でもあった。ライターの宮添優氏が、五輪代表本人ではなく周囲の関係者が次々と誹謗中傷トラブルに巻き込まれている現実についてレポートする。
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過去の五輪と比べてパリ五輪では、SNS上で飛び交った出場選手への誹謗中傷が大きな問題となった。それに対し、日本選手団が大会途中に声明を出すなど、社会問題に発展している。これらの問題は日本だけでなく、世界中が頭を痛めているのだが、五輪という”戦い”の空気に触発されたのか、ネットに不適切投稿を行うユーザーは勝手にヒートアップし、その刃の矛先は、選手以外にも及んでいるようだ。
陸上競技選手で、パリ五輪の代表選考から惜しくも漏れたAさん(20代)は、ライバル選手の活躍をテレビを通じて応援していた。ライバル選手は惜しくも決勝に進むことができず予選敗退。だが、しのぎを削ったライバル選手の健闘が賞賛に値するものであることは、Aさん自身が一番知っている。帰国したら食事に誘おう、4年後の出場を目指して切磋琢磨しよう…。そんなことを考えていた。
しかし翌日、自身のSNSのコメント欄で、知らないユーザー達が「口論」になっていることに気がついた。前日に負けたライバル選手の「アンチ」と思われるユーザーが、Aさんの投稿のコメント欄に「弱いライバル選手よりA選手が代表だったらよかった」と書き込み、ライバル選手のファンと思われるユーザーが反論したことがきっかけのようだった。
「私が出ていればメダルが取れていた、ライバル選手は辞退すべきだった等と書いてありました。そんなこと書かれても嬉しくないし、ライバルではあっても、憎み合う関係でもありません。周囲の全く関係のない人に変なこと言われて、いろんな人まで巻き込んで争うなんて見たくない」(Aさん)
Aさんはすぐコメント欄を閉鎖し、所属チームのコーチや監督に相談。ほとぼりが冷めるまではSNSに触らず、距離を置くことにした。
とばっちりとしか言いようがない誹謗中傷から始まった炎上を、自身のアカウントで繰り広げられてしまったのは迷惑でしかない。第三者から見たら、滅多にないことだろうから気の毒にと思うしかない。だが、似たようなとばっちりが五輪期間中は激増していた。本人とまったく関係のないところで起きていた誹謗中傷に、いつの間にか自身が巻き込まれてしまうことが珍しくなかったのだ。そして、選手だけでなく、その関係者にも誹謗中傷の影響は及んでいた。