1974年3月7日午後8時35分──。『木曜スペシャル 驚異の超能力!! 世紀の念力男ユリ・ゲラーが奇蹟を起す!!』(日本テレビ系)の中継スタジオは静まり返り、全国の視聴者は固唾を呑んでテレビ画面を見つめていた。今から日本とカナダのトロントを結び、視聴者を巻き込んだ一大実験が生放送で始まるのだ。
ユリ・ゲラーはテルアビブ生まれのユダヤ人で、当時27歳。幼い頃から念力で時計の針を進めるといった「超能力」を発揮。1972年12月から6週間、スタンフォード大学が設立した研究所でテレパシーや透視などのテストをされ、良好な結果を出した。1973年からアメリカやイギリスのテレビに出演し、有名になりつつあった。得意としたのが「念力」でのスプーン曲げだ。
そのユリ・ゲラーに注目したのが、UFO番組などを手掛けていた日本テレビの矢追純一ディレクター(89)。アメリカで取材し、『11PM』で1973年12月に紹介した。
「彼の超能力は今が絶頂期と思い、日本に呼ぶことにしました」(矢追)
銀座のクラブでも念力を発揮した
初来日は1974年2月21日で、26日に離日。
「日本に滞在中、銀座のクラブに連れていったら、女の子たちのネックレスなんかを曲げちゃいました(笑)」(矢追)
そして3月7日午後7時30分、『木曜スペシャル』が始まる。最初の1時間は滞在中に収録した録画部分が流された。その中でユリ・ゲラーは、番組アシスタントが描いた図形を見ずに当て、指でこするだけでフォークを曲げてみせるなどした。視聴者は驚き、番組の呼び掛けに応じて壊れた時計やスプーンなどをテレビの前に持ってきた。