日本語を母語としないながらも、今は流暢でごく自然な日本語で活躍している外国出身者は、どのような道のりを経てそれほどまで日本語に習熟したのか。日本語教師の資格を持つライターの北村浩子氏がたずねていく。最終回は、SNSで33万人以上にフォローされる「広島育ちのバズる駐日ジョージア大使」ティムラズ・レジャバさんにうかがった。【全4回の第1回】
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今、日本で一番知名度のある駐日大使と言えばこの方だろう。ジョージアのティムラズ・レジャバ大使。2024年7月現在、Xのアカウントには約34万のフォロワーがおり、来し方を綴ったエッセイ『ジョージア大使のつぶや記』(教育評論社)や、新鮮な視点の日本論『日本再発見』(星海社新書)などの著書もある。
黒海沿岸の国ジョージアは、美しいコーカサス山脈、温泉、そして8000年の歴史を持つワインの生産地として知られている。レジャバ大使は自国の情報をタイムリーに発信するだけでなく、大使として、また私人としてどんな日常を送っているのかを、豊富な写真とユーモア溢れる粋なコメントで日々伝えている。投稿には毎回たくさんの反応があり、いわゆる「常連ファン」も多い。
レジャバ大使と日本との関係は深い。父の広島大留学のため4歳で来日。その後帰国し、アメリカ滞在を経て小学5年で再び日本へ。茨城県つくば市での高校時代に一度ジョージアに戻って学び、早稲田大学在学中にはカナダ留学も経験。キッコーマンで会社員生活を送ったあと、ジョージアで貿易関係の仕事をしていた時に外務省から声がかかり入省。在日ジョージア大使館臨時代理大使に就任し、2021年に特命全権大使となった──というプロフィールの中で、日本で過ごした時間は20年近くに及ぶ。となると、日本語はもう母語のようなものなのだろうか? 大使にとって、日本語はどんな存在なのだろう。
移転前の赤坂の大使館でレジャバ大使はにこやかに迎えてくださり、まずこうおっしゃった。
「最初に申し上げておきたいのは、私の母語はやはりジョージア語で、日本語は『流暢に話せる第二外国語』という位置づけだということです。人生で一番最初に出会った言葉がジョージア語であること、そして自分自身の拠りどころはジョージアにあるというのがその理由です。
外側から見ると、日本人と変わらないくらいに日本語を使いこなしていると見えるかもしれませんが、実はそれなりにエネルギーを使っていますし、私の中では常に『外国語を話している』という感覚があります。子供の頃からずっと、どうやったら自然に話せるのか考えてきましたから、日本語はやはり意識的に獲得したものなんですね。たとえ日本語のほうがうまく使えたとしても、私にとっての心の言葉はジョージア語なんです」