パリ五輪男子高飛び込みで銀メダルを獲得した玉井陸斗(17)。日本飛び込み界で初めて表彰台に立つ快挙だった。
玉井を飛び込みの世界へ導いたのは、所属するJSS宝塚スイミングスクールでコーチを務める馬淵かの子氏(86)だ。メルボルン、ローマ、東京と3大会続けて代表となった飛び込み界のレジェンドで、小学1年生の玉井が飛び込みの体験教室に来た際にその才能を見出した。玉井とは69歳差の師弟関係になる。今大会での演技について馬淵氏が振り返る。
「五輪の前、本人に『私にはあんまり時間がないんよ。今回メダルを獲ってもらわんと、あと4年と言われたら困るで……』と脅したんです(笑)。銀メダルを獲った直後には、五輪に同伴していた(馬淵)崇英コーチ【※】から報告の電話が入りました。涙が出ましたよ」
【※中国出身の馬淵崇英氏は、馬淵かの子氏からの誘いでJSS宝塚のコーチに就任。1998年に日本国籍を取得した際に、「馬淵」姓となった】
一方で、師匠の目から見て「もったいなかった」と悔しがる場面がある。
男子高飛び込みは6種類の技を行ない、その合計点で競う。決勝での玉井は4本目までは五輪王者の曹縁(中国)と金メダルを争っていたが、得意とする5本目「307C(前逆宙返り3回半抱型)」を失敗して3位に。最終6本目に「5255B(後ろ宙返り2回半2回半捻り蝦型)」をノースプラッシュで決め、99.00の高得点を叩き出した。
「5本目を失敗した時は、心臓が止まりましたわ。玉井君には『頑張ったらアカンで』とずっと言ってたんです。いつもより回転が速くてオーバー(入水角度が完全な形の入水よりも行きすぎてしまった状態)になっていた。いつも通りにやればいいのに……。5本目には自信があるから“金メダルを決めてやろう”と思ったんやと思う。『あんた、頑張りすぎたな』と頭をコツンと叩いてやろうかなと思っています(笑)。でも、こういう失敗は今後に必ず生きるでしょう」