ソ連のアフガニスタンへの軍事侵攻に抗議して、アメリカのカーター大統領がモスクワ大会のボイコットを呼びかけ、日本政府も五輪不参加を決めた、という大事件が起きたのよ。
ライターになって2年目、23才の私は、「出場したい」と訴える柔道の山下泰裕氏の涙を呆然として見て、え〜っ、五輪って「参加することに意義がある」ってさんざん言ってたじゃん。話、違くね?と、世の中を裏側から見ちゃった感じ。
しばらく前、同世代の友人と飲んでいたら、彼女が「人は20代」と言い出して、えらく納得したんだわ。20代に体験したことがその人の生涯を貫く価値観を決めるというんだけど、モスクワ五輪を通して感じたことを振り返っても、思い当たることばかりだ。
モスクワの次がロス五輪で、開会式では背中にロケットを背負った人が空を飛んで話題になったんだけど、27才の私はちっとも楽しめなかった。以降、開会式の規模はますます大きく華やかになっていったけど、装置がデカくなればなるほど、スポーツの祭典が嘘くさく感じるんだわ。それだけじゃない。テンションの高い実況放送が最近は耳障りでたまらないのよ。で、気がつくと「ああ、やかましいっ!」と言いながら消音にして、数分後にはスイッチ、オフ。金メダルを選手に噛ませるのもいい加減にしてほしいし、年々増えていくタトゥー選手も美しいと思えない。
それにさ、五輪放送は夜中がメインで、昼間は連日記録的な猛暑。そのせいか救急車のサイレン音がいつもより多くないか?なーんてぼやきが止まらない私。こうしてますます偏屈な老人になっていくのかしら。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2024年9月5日号