今年で映画デビュー50年と迎えた草刈正雄(71才)。“二枚目”というイメージから、コミカルなイメージへとシフトするきっかけとなったのが市川崑監督『病院坂の首縊りの家』だった。この作品で草刈は、原作には登場しないオリジナルの金田一耕助の助手を演じ、コミカルな一面を開花させた。市川監督は草刈の俳優人生にとって重要な存在と言えるが、そのほかにも転機があったという──。【全4回の第3回。第1回から読む】
『真田丸』は役者人生で最もワクワクした作品
そしてもう1人、役者としてもうひと皮むけた演技を引き出してくれた恩人がいるという。それが脚本家の三谷幸喜さんだ。
「三谷さんとは、2014年に舞台『君となら〜Nobody Else But You』でご一緒させていただきました。三谷さんから“喜劇をやりませんか”と誘われての参加で、このときぼくはもう還暦を過ぎた62才。この年になっても新たな一面を見出してもらえるんだとうれしかったですね。
三谷さんの台本は、無理して観客を笑わそうとするものではなく、自然と演じているだけで笑いがとれるようになっているんです。なぜなら、三谷さんが役者をよく見てくださっているから。この役者にこのせりふを言わせたらおもしろい、という考え方で台本を作っているので、役者が自然に言葉を発するだけで笑えるんです。
たとえば、ぼくのせりふに“おい、お母さんはきっと草刈正雄をイメージしてるぞ”というものがあり、これがウケましてね(笑い)。これまでもコミカルな役は演じてきましたが、そのキャリアを生かしつつも新しい自分を引き出してもらえました。このときの経験もまた、ひとつの転機になったと思います」(草刈、以下「」内同)
そしてこの舞台で、さらなるチャンスをつかむ。
「三谷さんが楽屋にいらして、“再来年、大河をやるから出てほしい”と誘ってくれたんです。三谷さんは俳優のクセをわかったうえで台本を書いてくれる、というのはこの舞台でわかっていました。それって俳優を愛しているってことなんですよね。そして何よりユーモアがある。そんな彼が書く台本は絶対におもしろい。喜んでお引き受けしました」